【日馬富士暴行】貴ノ岩「診断書」の謎

2017年11月15日 16時30分

報道陣に囲まれた日馬富士は暴行を認めて謝罪した

 大相撲の横綱日馬富士(33=伊勢ヶ浜)が幕内貴ノ岩(27=貴乃花)を暴行して頭部にケガを負わせた問題は、波紋が広がるばかりだ。横綱が起こした不祥事に世間から厳しい視線が注がれているが、事件の衝撃を大きくしたのが、貴ノ岩サイドが日本相撲協会に提出した診断書の中身。脳振とうに頭部の骨折、さらには髄液(脳脊髄液)が漏れた疑い…と深刻な症状が並んだ。その一方、「全治2週間程度」で経過次第では今場所中に復帰可能との記述も。一見すると相反する内容だが、あり得ることなのか。専門家に聞いた。

 日馬富士の暴行を受けた貴ノ岩は「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」があり、全治2週間程度との診断書が相撲協会に提出された。その診断書には「その間(2週間)に状態が安定すれば、仕事に復帰が可能と思われます」との注釈も添えられた。

 ただ“加害者”の日馬富士は九州場所3日目(14日)から休場したが、診断書には「左上腕骨内側上果炎、左尺骨神経痛で約6週間の治療を要する見込み」と記されている。単純に比較できないこととはいえ、頭部に大ケガを負った“被害者”が「全治2週間程度」で、経過次第では土俵に復帰可能とは、あり得ることなのか。

 これについて、新日本プロレスの医事委員会に名を連ねる牧田総合病院脳神経外科の朝本俊司医師(55)は「全治2週間はまずない。普通1~2か月は入院でしょう。頭蓋底骨折は転落事故などに見られる高エネルギー外傷ですよ。いかに力士の力で殴ったとしても、よほどの長時間と何本か割れるまでやらないとビール瓶で折れるということは考えにくい。また単独で骨が折れる箇所ではない。脳挫傷や外傷性のくも膜下出血など、脳の出血も伴うはずです」と指摘した。

 朝本医師によれば、さらに不可解なのが「髄液漏の疑い」の文言だという。「髄液漏というのは確定診断なんです。骨折などのように『疑い』という診断はない。この診断書を書いた人がいるのなら、その人は脳外科医ではないのでは」と首をかしげた。

 診断書によれば、貴ノ岩は11月5日から9日まで福岡市内の病院に入院した。「髄液漏」まで確定した上で診断書通りの負傷であったとすれば、入院前に貴ノ岩が稽古をしたり、直前の2日に福岡・田川市役所を表敬訪問していたことは考えられないという。

「人間なら1000%、無理。緊急入院の大ケガです。力士としても年単位で(出場を)禁じられるでしょう。イベントにも出た上で何日後かにこの診断書というのは普通に考えにくい」

 サッカーJ1鹿島のチームドクターを務める関純氏(西大宮病院院長)も「信じられないですね。全治2週間ということはないでしょう。頭の骨折もあって耳から髄液漏れの疑いもあるわけだから」との見解を示した。その一方で「ただ、もしかしたら(全治が長いと)加害者が重い罪になるかもしれないということを加味したのかもしれない。診断書を書く段階でそういう判断をした可能性もある」と、横綱の立場に“忖度”した可能性もあるという。

 診断書に書かれた通りなら、貴ノ岩の力士生命は大丈夫なのか。関氏は「髄液漏れの疑いのところは、細菌が入って合併症もあり得るので一番気をつけないといけない。復帰は、しっかり止まっていることを確認してからにするべき。慎重に経過を見たほうがいい」とした上で「今場所は復帰しないほうがいい。まだ若いですから完治すれば、また相撲を取ることは大丈夫でしょう」。

 酒で酔った末に暴力行為に走った横綱の罪の重さは変わらないが、事件には不可解な点が多いのも事実だ。