大相撲名古屋場所12日目(20日、愛知県体育館)、横綱白鵬(32=宮城野)が関脇玉鷲(32=片男波)を寄り切って11勝目(1敗)。通算1047勝とし、魁皇(現浅香山親方)が持つ史上1位の記録に肩を並べた。そんな中、現役引退後は日本相撲協会に残り、親方になることを希望していた大横綱がついに日本国籍取得に向け、準備を開始したことが判明。一方で反発も懸念されており、波紋が広がりそうだ。

 取組後の白鵬は「言葉に言い表せない。昨年1年間、ケガもあり苦しんだ時期もあった。それがあるから、今の大記録がある。一味も二味も味がおいしい」と喜びをかみしめた。夏場所の全勝優勝に続き、史上1位に並ぶ通算最多勝に到達。さらにV39達成も目前の状況で、復活を強く印象づけた。目標に掲げる東京五輪が開催される2020年までの現役続行も不可能ではない。

 その白鵬の近況について、近い関係者がこう明かす。「今まで悩んでいた時期もあったが、日本の国籍を取ることを決めた。そのための準備も始めている」。

 かねて現役引退後は親方として日本相撲協会に残ることを希望。実際、師匠になることを前提に幕内石浦(27)や十両山口(28)ら内弟子を宮城野部屋に入門させた。そのためにはどうしても越えなければならないハードルがあった。親方になるには「日本国籍を有する者」という規定がある。白鵬は一時期、優勝回数をはじめ、数々の大記録達成や大相撲への圧倒的な貢献度を背景に、モンゴル国籍のまま親方になる道を模索していた。モンゴル相撲の横綱である父のムンフバトさんが国籍変更に強い難色を示したからだ。

 しかし、現在の協会トップを務める八角理事長(54=元横綱北勝海)は日本国籍保持の原則を崩す考えはない。協会内では“非主流派”の貴乃花親方(44=元横綱)も「それは難儀なんじゃないでしょうか。横綱であっても、どんなに活躍して成績を挙げても、協会上層部(の方針)は自分たちの師匠と同じ」と否定的な見解を示した。

 現状ではモンゴル国籍のまま親方になれる可能性は0%と言っていい。白鵬が日本国籍取得を決意した背景には、こうした事情もあるようだ。また帰化申請を出せば、日本文化に精通していることからも受理される可能性は高い。しかも国籍取得ならば、史上最多38回の幕内優勝などから引退後に「一代年寄」を与えられるのは確実。しこ名の「白鵬親方」として活動することになる。

 ただ、国籍変更に踏み切ったとしても大横綱には別の“難題”が待ち構えている。白鵬は15年初場所で大鵬の優勝回数記録を更新するV33を達成。同年2月にはモンゴルで日本の国民栄誉賞にあたる「労働英雄賞」を受賞した。その国民的英雄が日本国籍を取得した場合、母国ではどういう反応を示すのか。国民感情として反発も予想される。

 別の関係者は「横綱が(引退後)協会に残るためには日本の国籍を取るしかない。でも、モンゴルの人たちの理解を得られるのかは分からない」と懸念した。誰よりも大相撲の発展を願う白鵬が苦悩の末に下した決断は、日本以上に母国で大きな波紋を広げることになりそうだ。