大相撲名古屋場所初日(9日、愛知県体育館)、横綱稀勢の里(31=田子ノ浦)が新関脇の御嶽海(24=出羽海)に一方的に寄り切られて黒星発進。痛めている左上腕と左胸の状態が万全ではないことが改めて浮き彫りとなった。2場所連続の途中休場となれば、出場の選択そのものが批判の対象にもなりかねない状況。和製横綱が、いきなり窮地に立たされた。

 稀勢の里が格下に完敗を喫した。過去5戦負けなしと合口のいい御嶽海との顔合わせ。立ち合いから右を固めてきた相手に左差しを阻まれると、逆に二本差されて一方的に寄り切られた。取組後の支度部屋では報道陣からの問いかけにも「うーん」「まあ…」と生返事を繰り返すばかり。黒星発進したのち、途中休場となった夏場所の姿と重なって見えた。

 やはり、痛めている左上腕と左胸の状態は万全ではなかった。名古屋入りしてから新大関の高安(27)と積極的に三番稽古をこなす一方で、二所ノ関一門の連合稽古では格下の小結嘉風(35=尾車)に苦戦。“身内”の高安との稽古では得意の左を差す形をつくれても、全力で封じにくる相手への対応という点では課題を残したままだった。しかも、最大の武器である左のおっつけが使えないとなれば攻めの威力も半減する。

 日本相撲協会の八角理事長(54=元横綱北勝海)は「小手先で差しにいっている。(本来は)押し込んでからの左差し。ケガをしたから左のおっつけが出ない。押し込まずに差しにいっている」と指摘。「苦しい15日間になる? そう思う。今日の相撲を見る限りはね」と今場所の苦戦を予測した。2日目以降も格下への取りこぼしが続くようであれば、2場所連続の途中休場も現実味を帯びてくる。

 夏場所後は横綱審議委員会の一部委員から「名古屋場所は休場してでも、きっちり治してもらったほうがいい」と休場を求める意見が出た。今場所が始まる直前には、本来はライバル同士である関取衆の間から「丸々1場所休むのが嫌なのかもしれないけれど、無理をして余計に悪くするほうが怖い」と強行出場に疑問を投げかける声も上がっていた。さらに負けが込むようなら、こうした周囲の“雑音”が増していくことは避けられそうにない。

 もちろん、稀勢の里も自身への厳しい見方があることは承知しているはず。あえて出場して綱の務めを果たす道を選んだ以上は、今さら後戻りすることなどできない。果たして、ここから立て直して残り14日間を全うできるのか。再起を目指す和製横綱が、いきなり正念場を迎えた格好だ。