大相撲夏場所千秋楽(28日、東京・両国国技館)、関脇高安(27=田子ノ浦)が大関照ノ富士(25=伊勢ヶ浜)に小手投げで敗れ、11勝4敗で15日間を終えた。最後は連敗フィニッシュとなったがこの日、審判部は満場一致で大関昇進を決定。31日に開かれる日本相撲協会の臨時理事会を経て正式に「大関高安」が誕生する。これまで兄弟子の横綱稀勢の里(30)の陰に隠れがちだったが、この1年は急カーブで成長。その裏側にある要因を探った。

 高安の大関昇進が事実上、決まった。この日の審判部内での話し合いの結果、満場一致で昇進が決定。31日に開かれる日本相撲協会の臨時理事会を経て「大関高安」が正式に誕生する。審判部の決定を伝え聞いた高安は「素直に喜びたい。この15日間にかけていた。入門した時は全く想像できなかった。信じられない気持ち」と穏やかな表情で喜びをかみ締めた。

 高安は平成世代の出世争いで常に先頭を走ってきた。新十両、新入幕はいずれも高安が最初。2013年秋場所には平成生まれで初めて新三役となり、大関が視界に入り始めた。しかし、ここから上位では勝ち越せない時期が2年余り続く。高安が急成長したのは、この1年のことだ。昨年名古屋場所から三役に定着。今場所を含む直近6場所で10勝未満に終わったのは1度だけと安定感が光る。

 なぜ、ここまで急速に力をつけたのか。高安は「(以前は)突出したものがなくて全部、中途半端だった。ここ1年で自分の立ち合いを磨いて確立できた。立ち合いで7、8割の相撲の流れが左右されますから」と自己分析する。強烈なカチ上げからの突っ張りで一気に主導権を握る「攻めの相撲」は上位陣にとっても脅威だ。

 兄弟子の横綱稀勢の里の存在も見逃せない。審判部長の二所ノ関親方(60=元大関若嶋津)は「横綱が稽古相手だから、それは力はつく。自分が現役の時もそうだった。(同部屋に)貴ノ花さん(元大関)、間垣さん(元横綱二代目若乃花)、鳴戸さん(元横綱隆の里)…。強い稽古相手がいっぱいいた。やりたくなくても『来い!』と言われれば、いくしかない。自然と力がついた」と指摘する。

 高安と稀勢の里の稽古は常に手加減なしの真剣勝負。春場所前の稽古で稀勢の里が左目付近から大量出血した翌日も、高安は「土俵に上がったら関係ない」と容赦なく立ち向かった。相手への気遣いや遠慮を一切排除した“どつきあい”のような稽古で切磋琢磨。今では稽古場で弟弟子のほうが兄弟子を圧倒することも珍しくない。相乗効果で互いに力を伸ばした。

 実際、稀勢の里が昨年に年間最多勝(69勝)を獲得して横綱昇進の土台を築いた時期と、高安が大関取りの力を蓄えた時期はピタリと重なる。師匠の田子ノ浦親方(40=元幕内隆の鶴)は「高安は今までは稀勢の里に勝てなくて当たり前という感じだったのが、今は勝ちにいっている。いいライバル関係。稀勢の里が横綱に上がったこともプラスになっている」と証言した。

 兄弟子の2連覇に触発された高安は夏場所前に「次は自分が優勝してオープンカーに乗りたい」と宣言。結果的に初賜杯こそ逃したものの、平成生まれの日本人力士で初の大関昇進を文句なしで達成した。高安自身も稀勢の里について「感謝し切れない。ここ数場所は本当に刺激を受け、それが僕の原動力と発奮材料になった」と話す。

 稀勢の里がケガから復帰すれば、角界きっての強力なコンビとなりそうだ。