大相撲夏場所3日目(16日、東京・両国国技館)、横綱稀勢の里(30=田子ノ浦)が初顔の幕内千代の国(26=九重)を退けて2勝1敗と白星を先行させた。ただ、平幕を相手に土俵際まで押し込まれる辛勝で、相撲内容は「横綱相撲」とは言いがたい。角界内では3月の春場所で痛めた左上腕と左胸の状態が引き続き不安視される一方で、“最悪の事態”の懸念も広がり始めている。

 初金星の配給をあわやで免れた。平幕の千代の国に“弱点”である左側を攻められ、土俵際で押し込まれて大きくのけぞる場面もあった。何とか右足一本でこらえると、相手の引きに乗じて最後は倒れ込みながら押し出して逆転勝ち。取組後は「ヒヤリとした? うん。まあね」と辛勝を認めつつも「また明日につながる」と白星を前向きにとらえた。

 この日も春場所に痛めた左上腕と左胸に分厚いテーピング。状態は万全ではない。日本相撲協会の八角理事長(53=元横綱北勝海)は「(押し込まれて)最後は棒立ちだった。余裕はない。(場所前の稽古は)関取衆と何時間かやったくらい。稽古をやらないと重さが出てこない」と苦戦の要因を指摘した。

 まだまだ気が抜けない戦いは続く。ハラハラドキドキしているのはファンだけではない。身内の相撲界も稀勢の里の一番一番をかたずをのんで見守っている。角界関係者の一人は「本調子でないのは誰が見ても分かる。無理をして相撲を取る以上(患部は)悪くなることはあっても良くなることはない」と心配顔。「途中で休場するのなら早いほうがいい。他の横綱と当たって、また大ケガをされたら大変」と和製横綱の身を案じた。

 春場所の劇的な逆転優勝も相まって、夏場所の前売り券は約1時間半で完売。親方衆でさえも後援者などに配るチケットの調達に苦労しているほどだ。館内で販売される稀勢の里のタオルやキーホルダーなどグッズ類も飛ぶような売れ行き。もはや最大のドル箱力士と言っていい。今の相撲人気を支える必要不可欠の存在だ。逆に、稀勢の里に万が一のことがあれば角界全体にとっての大打撃となる。

 序盤戦で平幕を相手に連勝したものの、中盤戦以降は三役級以上の対戦が本格化する。番付が上がるにつれて相手の圧力や速さは増していくだけに、稀勢の里がケガを悪化させるリスクも高まる。春場所では横綱日馬富士(33=伊勢ヶ浜)に一方的に寄り倒されて負傷したことは記憶に新しい。強敵相手に致命傷を負うくらいなら、早く休んで次の場所に備えてくれたほうがマシ…ということなのだろう。

 もちろん、責任感が強い稀勢の里は横綱として15日間を全うすることしか考えていないはず。周囲が気をもむ日々は最後まで続きそうだ。