【大相撲春場所】稀勢の里 奇跡Vの舞台裏…2日連続惨敗なら逆風吹いていた

2017年03月28日 11時00分

「君が代」が流れるなか、稀勢の里は感極まって号泣した

 大相撲春場所千秋楽(26日、大阪府立体育会館)、新横綱の稀勢の里(30=田子ノ浦)が13勝2敗で並んだ優勝決定戦で大関照ノ富士(25=伊勢ヶ浜)を小手投げで下し、2場所連続2回目の優勝を果たした。新横綱の優勝は貴乃花以来22年ぶりで、8人目の快挙を達成した。13日目の取組で左肩と上腕部付近を負傷。まさかの強行出場で角界内に大きな波紋を広げたが、奇跡の逆転Vで自らの正しさを証明してみせた。誰もが予想できなかった「稀勢の里劇場」の舞台裏を追った――。

 歴史的な大逆転劇だ。稀勢の里が大一番で奇跡を起こした。1差で追う照ノ富士との本割では、なりふり構わず勝ちにいった。最初の立ち合いは先に右に動いて不成立。2度目は左へ変化して、最後は土俵際の突き落としで2敗同士の優勝決定戦に持ち込んだ。決定戦は土俵際まで寄られる絶体絶命のピンチ。無我夢中でとっさに右から小手投げを繰り出すと、大関の巨体はたまらず裏返しになった。

 満身創痍の体で、まさかまさかの2連勝。勝利への執念で連覇を引き寄せた。表彰式では「君が代」が流れる最中に感極まって男泣き。優勝力士インタビューでは「すいません。今回は泣かないと決めたんですけど…。苦しかったぶん、うれしい。自分の力以上のものが出た。あきらめないで、最後まで力を出してよかった」と胸の内を明かした。

「稀勢の里劇場」の幕開けは、初日から12連勝で迎えた終盤戦の13日目だった。横綱日馬富士(32=伊勢ヶ浜)に初黒星を喫し、左肩と上腕部付近を負傷。普段は人前で痛がる姿を見せない男が大声を上げながら悶絶し、救急車で病院へ搬送された。あまりにもショッキングな光景を目の当たりにした角界関係者の大半は休場を確信した。

 ところが、稀勢の里は全く予想外の行動に出る。14日目朝に師匠の田子ノ浦親方(40=元幕内隆の鶴)に直訴して強行出場を選択。この判断が角界内に大きな波紋を広げることになる。

 実に19年ぶりに誕生した和製横綱は相撲界全体の“至宝”。春場所の前売り券が2時間で完売するなど、いまや大相撲人気を大黒柱として支える存在だ。さらにケガを悪化させれば、長期休場どころか今後の力士生命にもかかわりかねない。「強行出場」の一報が伝わると関係者の間では「本当に出るのか」「どこを痛めたのか」などと話が飛び交い騒然となった。審判部の親方の一人も「出るのは立派なことなんだけど…。やっぱり横綱は内容」と困惑顔。

 その14日目は横綱鶴竜(31=井筒)に一方的に寄り切られて完敗し「横綱同士の相撲じゃない。どうして、師匠は休ませなかったのか」(ベテラン親方)と批判めいた声が上がった。横綱は出場することも大事だが「強さ」を見せることも重要な務めだ。ただ勝つだけでなく、相撲内容までもが問われる。痛々しく敗れる姿をさらし続ければ、横綱の権威そのものが損なわれかねない。

 千秋楽に2日連続でぶざまな負け方をすれば、師匠の田子ノ浦親方や稀勢の里本人に対する風当たりが一気に強まる可能性もあった。奇跡の逆転優勝の裏では、一転して逆風を受ける“危うい状況”でもあったのだ。

 それが劇的な逆転Vで強行出場の判断の正しさを示したと同時に、正真正銘の横綱であることを証明してみせた格好。日本相撲協会の八角理事長(53=元横綱北勝海)は「今後に語り継がれる逆転優勝」と最大級の賛辞を贈った。