ようやく負のスパイラルに終止符を打った。大相撲九州場所千秋楽(27日、福岡国際センター)、横綱鶴竜(31=井筒)が横綱日馬富士(32=伊勢ヶ浜)を寄り切って14勝目を挙げ、7場所ぶり3度目の優勝に花を添えた。V逸が続き、横綱としての地位が揺らぎかねない中で賜杯奪回に成功。今年は鶴竜自身や師匠の井筒親方(55=元逆鉾)に次々と不幸な出来事が発生し、部屋全体に暗い影を落としていたが、すべてを吹き飛ばす結果となった。

 7場所ぶりに賜杯を抱いた鶴竜は「(過去2回の優勝と)また違った意味で本当にうれしいです。横綱としての責任を果たせなかったのが悔しかったし、苦しかった。3横綱が揃っているなかで優勝したいという目標もあったし、それを達成できて良かった」と喜びをかみしめた。

 今年は鶴竜にとっても、井筒部屋にとっても“厄年”のような一年だった。1月に日本相撲協会の理事改選が行われ、2期目の副理事に立候補していた井筒親方が、まさかの落選。役員としての待遇を失った。3月の春場所では、さらなる不運に見舞われた。白鵬(31=宮城野)が嘉風(34=尾車)を土俵下まで投げ飛ばし、審判長の井筒親方と激突。救急車で病院送りにされた。左太ももの骨折で全治3か月の大ケガ。長期のリハビリ生活を強いられることになった。

 しかも“加害者”の白鵬はいつまでたっても謝罪に訪れないという屈辱的な仕打ちまで受けた。見かねた某親方が働きかけたこともあり、白鵬が頭を下げに来たのは2か月以上もたった5月の夏場所後。危うく「なかったこと」にされるところだった。

 災難は鶴竜自身にも降りかかった。稽古のやり過ぎで腰椎椎間板症となり、7月の名古屋場所で途中休場。横綱としての存在感は薄れる一方だった。あまりにも不幸な出来事が連続して起きたため、当初は今年中にも開く予定だったムンフザヤ夫人との結婚披露宴も先送りにせざるを得なくなった。

 鶴竜は「親方がケガをしたり自分がケガをしたりして、うまくタイミングが合わなかった。親方も元気になってきたし、来年あたりにできれば。一生で一度だけのことですから(夫人のために)やってあげたい。女性はウエディングドレスも着たいでしょうし…」。遠くを見つめながら、苦難の末に待っている幸せな日に思いをはせた。

 もちろん、これまでのようにV逸続きでは結婚披露宴を開いたところでバツが悪いことこの上ない。今回の優勝で災難続きだった部屋の“厄払い”を果たすと同時に、披露宴を開くための下地が整ったとも言える。自らの力で「暗黒の一年」に終止符を打った鶴竜。横綱としての存在感も取り戻し、穏やかな気持ちで年を越すことができそうだ。