大相撲秋場所千秋楽(25日、東京・両国国技館)、大関豪栄道(30=境川)が大関琴奨菊(32=佐渡ヶ嶽)を寄り切って15連勝でフィニッシュ。史上初となるカド番からの全勝優勝を達成した。日本人力士の全勝Vは1996年秋場所の横綱貴乃花以来、20年ぶりの快挙。次の九州場所(11月13日初日、福岡国際センター)では自身初の綱取りに挑戦する。これまで不安定な成績が続いていたナニワの大関は、今場所の勢いを持続したまま綱をつかめるのか。土俵外に潜む“落とし穴”とは――。

 豪栄道が琴奨菊を寄り切って全勝で初優勝に花を添えた。表彰式での優勝インタビューでは「重い賜杯でした。(全勝は)本当にうれしい。なかなかいい成績を収められなくて情けないし、やりきれない気持ちだった。師匠(境川親方)やおかみさんをはじめ、いろんな人たちに励ましてもらったおかげ」と話し、初めて賜杯を抱いた喜びをかみしめた。

 大関昇進後は左ヒザをはじめ両肩、右太もも、さらには顔面骨折など相次ぐケガに苦しんだ。過去12場所でカド番を4度経験し、2桁白星は1回だけ。「大関失格」の烙印が付いてまわった。一方で、今場所前は体のケアに力を入れたこともあり稽古量が増加。いつになく万全に近い状態で本番を迎えることができた。序盤戦を無傷で乗り切ったことも大きい。

 前へ出る積極性が日ごとに増し、連勝街道を突き進んだ。しかも、今回は横綱でさえ達成が難しいとされる全勝V。来場所の綱取りに異論を挟む余地はないだろう。ただ、豪栄道にとって横綱挑戦は初めての経験。今場所の勢いを持続できるかは未知数だ。

 日本相撲協会の八角理事長(53=元横綱北勝海)は「全勝は大したもの。次も期待できる」とした上でこう指摘する。

「(綱取りの)プレッシャーがかかるのは初めて。相手を見ていこうとか、気持ちが受けに回って自分の相撲が取れなくなると、ガタガタッとくる。来場所で本当の力が試される」。審判部長の二所ノ関親方(59=元大関若嶋津)も「九州(場所)まで横綱、横綱と言われる。それを乗り越えていかないと。今まで通り、前に出られるか」と同じ意見だった。

 今場所は「初優勝」のプレッシャーがあったにせよ、本当の意味で重圧がのしかかった時期は後半戦の数日間にすぎない。ここから1か月も先で2場所にまたがる「綱取り」のプレッシャーは、優勝のそれとは比較にならないということだ。また、初めて優勝した力士が陥りがちな土俵外に潜む“落とし穴”を指摘する声もある。

 陸奥親方(57=元大関霧島)は「自分が優勝した時は、その後が大変だった。とにかく忙しくなって稽古も普段通りにできなくなる。それで、自分もダメになった(苦笑)」と振り返る。同親方は大関時代の1991年1月場所で初優勝を果たした。しかし、優勝祝賀会などの行事で忙殺され、綱取りに挑んだ翌3月場所は5勝10敗と大敗した苦い過去がある。その経験から「本気で横綱を目指すのなら、断れるものは断ったほうがいい」という陸奥親方の言葉は説得力十分だ。

 豪栄道も、地元や後援会などによる祝賀行事だけではなく、友人・知人ら個人単位での宴席への誘いも一気に増えるはず。どこまでコントロールできるかが、綱取りの行方を左右することになりそうだ。