九重親方(享年61=元横綱千代の富士)の死去から一夜明けた1日、相撲界に与えた衝撃の大きさが改めて浮き彫りとなった。現役時代に無敵の強さを誇った横綱の突然の死に、日本相撲協会のトップや角界の大物OBの反応は一様に「信じられない」といった様子。2014年の理事選で落選して以降は協会の要職から外れていたが、やはり優勝31回を誇る大横綱の存在感は別格だった。

「ウルフ死去」が相撲界に与えた衝撃は一夜明けても収まることはなかった。

 この日の午前、現役時代の師匠だった北の富士勝昭氏(74=相撲解説者)が東京・墨田区の部屋を弔問。「快方に向かっているとばかり思っていた。(性格は)豪快だけど繊細。口は悪いけど、腹はそれほど悪くなかった。まだまだ協会に力を尽くせる。悔しい」と沈痛な面持ちで唇をかんだ。

 日本相撲協会の八角理事長(53=元横綱北勝海)は東京・両国国技館で報道陣に対応。「(訃報を聞いて)『本当なのか?』と思った。現役のころから絶対に負けない人だった。病気にも勝つんだろうなと考えていた」と兄弟子の突然の死に驚くばかり。「一番の思い出」に挙げたのは、千代の富士からつけられた厳しい稽古だった。

 八角理事長は「(九重親方は)稽古で力を抜いてくれなかった。私も弱音を吐かずにぶつかった。お互いに意地があった。その時の思い出を…何年かたってから、2人でゆっくり飲みながらもう一度話してみたかった」と言い、話の途中で思わず涙ぐむ場面もあった。

 2人は決して「親密」と呼べるような間柄ではなかった。今年1月の理事選では、八角理事長に反旗を翻した貴乃花親方(43=元横綱)を九重親方が支援。両者の溝は深まっていた。

 それでも現役時代に濃密な時間を共有した“戦友”の死には、特別な感情を抱かずにはいられなかった。

 あの「お騒がせ男」も心を激しく揺さぶられた。この日、元横綱朝青龍(35)が所用のため来日。かつては千代の富士の相撲にあこがれ、入門後は同じ高砂一門だった縁もあって親交を深めた。

 成田空港に到着した朝青龍は「現役のころもお世話になったし…信じられない」と涙を流した。午後7時過ぎには東京・墨田区の九重部屋へ弔問に訪れ、再び目に涙を浮かべた。相撲界の重鎮や大物OBを含めて、昭和の大横綱を失った喪失感は当分の間、消えることはなさそうだ。