大相撲名古屋場所5日目(14日、愛知県体育館)、初優勝と綱取りに挑む大関稀勢の里(30=田子ノ浦)が幕内栃煌山(29=春日野)を相手に痛恨の初黒星を喫した。V本命の横綱白鵬(31=宮城野)も敗れたため、星の差がつかずに“命拾い”したが、後々にこの黒星が大きく響きそうだ。

 稀勢の里に早くも序盤戦で土がついた。取組後は「また明日、頑張ります」。短い言葉に悔しさをにじませた。綱取りのムードが一気にしぼみかけるところだったが、直後に白鵬までもが敗れる大波乱。星の差がつかず、綱取りの前提となる初優勝に向けて望みをつないだ格好だ。ただ、これで胸をなで下ろすわけにもいかない。

 この日の黒星が横綱昇進の可否をめぐる「アヤ」となる可能性があるからだ。審判部が掲げる綱取りの条件は、シンプルに今場所で「優勝」すること。勝ち星のハードルを設けなかったのは、過去2場所連続13勝の好成績を評価してのものだ。一方で、横綱審議委員会の守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)の見解は「14勝以上の優勝」。この条件でいくと、稀勢の里は今場所の残りを全部勝つしかなくなる。

 もちろん、これは守屋委員長の個人的な意見にすぎない。13勝以下の優勝であっても、横審全体の決議(出席委員の3分の2以上)があれば横綱に昇進する。だが、夏場所後に開かれた横審の会合で“慎重論”を唱えたのは守屋委員長だけではない。今後、優勝ラインが14勝から13勝、12勝…と下がっていくことになれば、横審内でも昇進を見送る意見が強まることは避けられそうにない。

 白鵬と1敗同士で並び、仕切り直して臨む中盤戦。後々になってから「あの負けがなければ…」と悔やまないためにも、これ以上の取りこぼしは避けたいところだ。