大相撲夏場所千秋楽(22日、東京・両国国技館)は、大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が横綱日馬富士(32=伊勢ヶ浜)を押し出して13勝目。次の名古屋場所(7月10日初日、愛知県体育館)で再度の綱取りに挑むことになった。審判部内ではV逸でも成績次第では横綱に推す意見も出るなど、和製横綱の誕生を強力に後押し。ただ、優勝経験がない横綱は“悲劇”を生む危険性をはらんでいる。

 稀勢の里が名古屋場所で綱取りに再挑戦だ。全勝優勝の横綱白鵬(31=宮城野)に及ばず初優勝は逃したとはいえ、2場所連続で13勝の好成績。二所ノ関審判部長(59=元大関若嶋津)は「今日の一番は大きい。(来場所の綱取りは)優勝が第一条件。星数に関係なく? そうですね。今場所13勝しているし、その前も13勝。安定している」と明言した。

 同審判部長は今場所での綱取りに「14勝以上の優勝」と高いハードルを設定していたが、2場所連続13勝を挙げたことで条件を緩和。来場所は仮に13勝以下でも、優勝さえすれば横綱昇進にゴーサインを出す構えだ。日本相撲協会の八角理事長(52=元横綱北勝海)も「(連続13勝は)立派だと思う。(綱取りは)優勝すれば当然」と同じ見解を示した。

 来場所は星数にかかわらず「優勝=横綱昇進」。綱取りの条件は極めてシンプルになったようにも見える。だが、実際は違った。13日目に稀勢の里が白鵬との全勝対決に敗れた時点で、審判部内で「V逸でも14勝なら横綱」との意見が出ていたからだ。先場所は白鵬が14勝で優勝。稀勢の里は13勝で鶴竜(10勝)、日馬富士(9勝)の両横綱の成績を上回った。

 今場所も鶴竜が11勝で日馬富士が10勝。稀勢の里が全勝優勝の白鵬と1差の14勝であれば、優勝を逃しても横綱に推す機運があったわけだ。続く14日目、稀勢の里が鶴竜に2敗目を喫して全勝の白鵬の優勝が決定。結果的に綱取りムードはしぼんだものの、来場所も好成績ならば「V逸でも横綱」という見解が再燃するのは間違いない。

 優勝未経験のまま横綱に昇進すれば、1986年の北尾(双羽黒)以来30年ぶり。北尾の横綱昇進前の場所は14勝で優勝同点(優勝決定戦進出)だった。ただ、双羽黒は最後まで優勝しないまま、数々の騒動を巻き起こし廃業。当時の反省もあり、一時期は横綱昇進の基本条件である「2場所連続優勝」が厳格化される時期が続いた。

 一方、稀勢の里には優勝同点の経験すらない。仮に、横綱になっても優勝未経験は大きな重荷になる。また昇進後も優勝を逃し続ければ北尾の“暗黒史”が再び蒸し返されかねない。さらに横綱となっても格下に取りこぼせば、すぐさま角界内外で「大甘昇進」「横綱不適格」などと猛烈な批判が浴びせられるのは避けられない。

 千秋楽を終えた稀勢の里は「(全勝の白鵬と)2つも離されているから話にならない。まだまだじゃないですか」と前を向いた。綱取りの可能性を残した次場所で、誰もが納得する「優勝」で昇進できるか。