大相撲夏場所12日目(19日、東京・両国国技館)、初優勝と綱取りを狙う大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が大関照ノ富士(24=伊勢ヶ浜)を難なく押し出して全勝を守った。一方、照ノ富士は故障の影響で前日まで9連敗中。V争いをする大関の相手として適格かをめぐり、審判部内でも議論になった。最終的に稀勢の里は絶不調の相手と対戦する絶好の展開に。横綱白鵬(31=宮城野)との全勝対決を前に和製大関に吹いた“追い風”の背景とは――。

 稀勢の里は白鵬とともに全勝をキープ。13日目の最強横綱との直接対決に向けて「一日一日ですから。集中してやるだけ」と表情を引き締めた。

 この日に対戦した照ノ富士は大関とはいえ、両ヒザなどの故障の影響でドロ沼の9連敗中だった。格下相手にも土俵際で残せないほどの深刻な状態。審判部内では優勝を争う大関の対戦相手としては、ふさわしくないとの意見もあった。

 結局、審判部は通常通り大関同士の割(取組)を選択。審判部長の二所ノ関親方(59=元大関若嶋津)は「難しい判断だったのは確か。そういう話は審判部でも出た。(番付が)下のほうで優勝争いをする力士がいれば、稀勢の里と当てることも考えられた。ただ、今場所はそういう力士が出てこなかったから。そうなると、大関と当てないわけにはいかない」と説明した。

 実際、大関が番付上は通常対戦しない下位力士と終盤戦で当たることは珍しいことではない。初場所で優勝した大関琴奨菊(32=佐渡ヶ嶽)も、全勝で迎えた13日目に1敗で追う前頭7枚目の豊ノ島(32=時津風)と対戦が組まれた(結果は琴奨菊の黒星)。ところが、今場所は幕内中位以下でV圏内にとどまる力士は皆無だった。

 それ以外にも“誤算”があった。早い段階で休場すると見られた照ノ富士が終盤戦まで出場したことだ。幕内中位以下で優勝争いから脱落していても、三役経験がある実力者を稀勢の里に当てる選択肢もあった。ただ、優勝を争う白鵬が手負いの照ノ富士に快勝している以上は、稀勢の里とも対戦させるほうが公平性は保たれる。稀勢の里が難なく白星を手にした取組の背景には、さまざまな要因が重なっていたのだ。

 いずれにせよ、和製大関にとっては大きな“追い風”が吹いていることは確か。このまま初賜杯と綱取りに突き進めるか。