大相撲夏場所10日目(17日、東京・両国国技館)、大関稀勢の里(29=田子ノ浦)が大関琴奨菊(32=佐渡ヶ嶽)を寄り倒し、横綱白鵬(31=宮城野)とともに全勝をキープ。悲願の初優勝へ一歩前進した。横綱審議委員会は春場所後の会合で議題にすらしなかった綱取りについて「14勝以上での優勝」を条件に横綱に推薦する構え。慌ただしく“方針転換”することになった背景とは――。

 全勝を守った稀勢の里は「いい攻めだったと思います。必死にやるだけ。思い切って集中して」と残り5日間へ向けて表情を引き締めた。満員御礼が続く国技館内の観客からの声援は日ごとに大きくなるばかり。悲願の初優勝、さらには1998年の三代目若乃花以来18年ぶりとなる和製横綱誕生への期待感は、いつになく高まっている。

 稀勢の里は春場所で優勝した白鵬と1差の13勝を挙げた。だが、春場所後に開かれた横審の定例会合では、稀勢の里の綱取りは議題にすら上らなかった。横審の内規で横綱推薦の条件は(1)2場所連続優勝(2)準ずる好成績となっている。(2)が適用された鶴竜(30=井筒)の場合も、最初の場所は14勝で優勝決定戦に進んだ(優勝同点)。次の場所は14勝で初優勝し、横綱昇進を果たした。

 春場所の稀勢の里は鶴竜に1勝及ばないばかりか、優勝決定戦にも進出していない。横審が綱取りの議論をスルーしたのも、その時点では自然な判断だった。ただ、夏場所が近づくにつれて稀勢の里に“追い風”が吹き始める。場所前に審判部長の二所ノ関親方(59=元大関若嶋津)は「全勝か14勝で優勝」と綱取りの目安を提示。八角理事長(52=元横綱北勝海)も「内容次第」と否定しなかった。

 稀勢の里は大関でコンスタントに10勝以上を挙げている実績がある。何より、和製横綱の誕生は角界やファンにとっても最大の悲願。横審としても、周囲の期待感は無視できない状況にあった。10日目の取組を視察した守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)は「(5日目の)場所総見でも『14勝で優勝なら横綱にしてもいいのではないか』という意見が多かった」と綱取りの条件を追認した。

 さらに、守屋委員長は「相撲協会だけではなく、日本国民全体が日本出身の横綱の誕生を後押ししている感じがする。横審としても、そのムードには逆らえない」。相撲協会のトップから審判部、そして諮問機関の横審からもお墨付きを得た今回の綱取り。何が何でも、チャンスをモノにしておきたいところだ。