平成の大横綱によって巡業に新たな風は吹くのか。3月末、日本相撲協会の新巡業部長に就任した貴乃花親方(43=元横綱)が春巡業を率いるようになってから2週間が経過した。多くの効果が期待される中、早くも稽古の雰囲気に変化が生まれている。

 巡業初日の4日、貴乃花親方は関取衆に「汗をいっぱいかいて頑張ってください」と通達。昨年まで申し合いは事前に申告した数人のグループごとに行っていたが、新部長の意向で参加者がその場で相手を選ぶ形式に変更された。一時代を築いた大横綱が土俵下から目を光らせる状況に「今までと緊張感が全然違う」(幕内力士)。大関稀勢の里(29=田子ノ浦)や、幕内逸ノ城(23=湊)らに自ら声をかけて直接指導するシーンも見られた。

 こうした変化に、力士たちも敏感に反応。これまでの巡業と比較しても稽古への参加人数は増加し、横綱白鵬(31=宮城野)が幕内の稽古が始まる前から土俵に姿を見せる“異例”の行動もあった。チケットを購入して訪れるファンの目線から見れば、より真剣で迫力がある稽古が見られることはプラス材料に違いない。

 ただ、貴乃花親方の巡業部長としての「手腕」は未知数だ。2012年に大阪場所の担当部長に就任すると、吉本新喜劇に初出演し、豪快にコケるなど体を張った演技でPR。場所中も自ら着物姿でファンとの撮影会を実施するなど、観客動員の増加に大きく貢献し、角界内での評価も大いに高まった。

 その点、今回の巡業中は明確な「貴乃花色」はまだ見えてこない。各地の巡業で大入りが続くなか、巡業部副部長の玉ノ井親方(39=元大関栃東)は「これがいつまでも続くわけではない。どうしたらファンの皆さんに喜んでもらえるか。これから(巡業部内で)話し合っていきたい」。

 3月の理事長選で貴乃花親方は八角理事長(52=元横綱北勝海)に完敗。協会中枢の執行部を外れ、巡業部へ異動となった。この先の“復権”を目指すならば、当面は現職で再び実績を積み上げるしかないはずだが…。今後の動向に注目だ。