大相撲九州場所で2年ぶり7度目の優勝を果たした横綱日馬富士(31=伊勢ヶ浜部屋)が25日、都内で行われた歌手KUNI(28)の3rdシングル「願い叶うなら」(12月2日発売)発売記念イベントに出席した。

 この曲は日馬富士が抱く亡き父に対する思いを、10年来の親交があるKUNIが切々と歌い上げたものだ。

 日馬富士の父ダワーニャムさんは警察官でモンゴル相撲の関脇だった。2000年、ダワーギーン・バトバヤル氏(42=元旭鷲山)に憧れて16歳で一人海を渡った日馬富士は、研さんを積み12年かけて角界の頂点に上り詰めた。だが、ダワーニャムさんは息子の横綱土俵入りを見ることなく、06年に交通事故で他界した。

 日馬富士は「デビュー曲を部屋のパーティーで歌ってくれて感動した。いい男がいるなという感じで、男が男にほれた。それで、冗談半分でミュージックビデオに出たいなと言ったら、KUNIが僕の話を聞いて詞を作ってくれた。初めて聴いた時は胸が痛くて苦しく、涙が止まらなかった」と振り返る。

 先場所は体を温める際にこの曲を毎日聴いて集中した。「優勝こそが父の望むこと。今日の発表会に花を咲かせて、いい報告をしたいという思いが強かった」という。

「父は優しくて厳しい人だった。来日してずっと『骨は折れても治るけど、名前を傷つけたら直らないよ』との教えを守り、大きな背中を追いかけて、父に、国に迷惑をかけない思いでやってきた」という。まさに父への思いが、幾多のケガを超えての優勝を呼び込んだ。

 9年前、父の訃報を聞いてモンゴルに駆けつけるも、初場所を直前に控え父の葬式に出られなかった。「初日の翌日が葬式だった。葬式に出られないなんて、もう日本には戻らない、辞めてやると思ったが、母と兄に説得された。人間一番つらいのが別れ。それを経験したので、これ以上つらいことはない」。覚悟を決めての来日以降、綱取りへの思いを強くした。

 ジャケットの絵は油絵が趣味の日馬富士によるもの。8月に出来上がった楽曲を元に思いを込めて絵を描いた。

「夜の海に月が映っている。海は広い。見ていて楽しいし、深い。自分はモンゴルから海を渡ってきているので」

 父の曲に自らの絵を捧げ、優勝で花を飾った日馬富士。勝利の美酒は格別だったことだろう。