大相撲名古屋場所12日目(23日、愛知県体育館)、横綱鶴竜(29=井筒)が新大関照ノ富士(23=伊勢ヶ浜)をすくい投げで退けて1敗をキープ。2敗力士が消え、優勝争いは事実上、横綱白鵬(30=宮城野)との一騎打ちとなった。自身が左肩のケガで2場所休場している間に土俵の勢力図は一変。照ノ富士が横綱への最速出世をうかがうなか、“30歳から最強説”を唱える遅咲きの横綱が「待った」をかけた格好だ。

鶴竜に横綱初Vのチャンスが到来した。これまで何度も賜杯を取り逃がしてきただけに、取組後は「まだまだ。集中していきたい」と表情を引き締めた。

 今場所の鶴竜は左肩の故障明け。2場所連続休場している間に、照ノ富士が一気に初優勝と大関昇進を同時に果たした。1958年の年6場所制以降、初土俵から大関まで所要25場所は歴代3位のスピード記録(幕下付出を除く)。大関から横綱昇進までの最短記録(3場所)も視野に入れている。遅咲きの相撲人生を送ってきた自身とは大きく異なる。

 初土俵から大関まで62場所は海外出身力士では最長。横綱まで74場所は6場所制以降では4位のスロー昇進だった。8月10日には節目となる30歳の誕生日を迎える。アスリートの世界であれば、力が衰える分岐点にもなる年齢だ。それでも、鶴竜には“三十路”を迎えることをネガティブにとらえる意識はない。20代前半のころとの違いについて「あまり気にならない」とキッパリ言い切った。

 その自信の根拠になっているのは「男は30歳から」というモンゴルの有名な言い伝えだ。鶴竜は「30歳になって“一人前の大人の男になる”と言われています。モンゴル相撲でも、30歳を超えてから横綱や大関になって活躍している人がいる」。単純に、瞬発力や勢いだけなら若い力が勝るのは自明の理。逆に、技術や勝負の駆け引きなどの経験は年齢を重ねていくほどに深まっていく。

 鶴竜は「(30代になると)そういったものが、全部かみ合っていくんでしょうね。そう思って、自分も頑張ります」。力士としての「総合力」なら、若い世代に負けない自負があるのだろう。

 その言葉通り、この日の取組では新大関を“子供扱い”した。鶴竜と照ノ富士は、ともに優勝1回ずつ。格の違いを見せる上でも、今場所で優勝を果たしたいところ。残り3日間に注目だ。