「横綱日馬」朝青龍化の恐れ

2012年09月25日 18時00分

日馬を祝福した朝青龍

 末は名横綱か、それとも“迷横綱”か――。秋場所千秋楽、綱取りに挑む大関日馬富士(28=伊勢ヶ浜)が横綱白鵬(27=宮城野)を下手投げで破り、2場所連続全勝優勝。横綱昇進を確実にした。26日の理事会で正式決定する。一方で、舞台裏で審判部内では昇進の可否を議論する過程で反対論が続出していたことが判明。さらに横綱審議委員会も注文を突きつけるなど、異例ずくめの誕生となった“第70代横綱”の本当の評価を探った。

 横綱昇進を決定的とした日馬富士は「本当に良かった。勝った瞬間?『やった』としか…。全身全霊で自分の力を全部絞り出して、悔いのない相撲を取りたかった」と喜びを口にした。2場所連続の全勝優勝での横綱昇進は、双葉山、貴乃花に次ぎ3人目という快挙。これ以上にない好成績を残したにもかかわらず、実は優勝決定の直前まで日本相撲協会内では横綱昇進には慎重論が根強かった。この日の昼過ぎ、鏡山審判部長(54=元関脇多賀竜)が横綱昇進を諮る理事会の招集を要請したが、北の湖理事長(59=元横綱)は「今日の一番を見てから」と決定を保留する異例の“裁定”。また、14日目に開かれた審判会議では無敗の日馬富士の横綱昇進をめぐって議論が紛糾した。しかも、「満場一致」どころか、反対意見が続出したという。ある親方は「成績的には文句のつけようがなかったが…。『素行が良くない。横綱に上げて大丈夫なのか』『千秋楽の結果で決めたほうがいい』という意見が出ていた」と打ち明けた。

 綱取りがかかる今場所こそ“自重”していたものの、ダメ押しや相手をにらみつけて威嚇したことは一度や二度ではない。稽古場でも格下の力士を容赦なく叩きのめし、連合稽古では他の部屋の親方から苦言を呈されたこともある。親方衆の間で日馬富士は今回の綱取り以前から「要注意人物」のレッテルを貼られていたのだ。

 さらに、今後は「横綱」という特別な地位を得ることで“朝青龍化”の懸念もある。日馬富士と朝青龍の親密な関係は有名。ただ、その兄貴分は度重なる不祥事を起こしたことで一昨年2月に引退に追い込まれている。引退後も今年5月にはウランバートルで飲酒運転と警官への暴行、8月にはモンゴルのテレビ局経営者への暴行を報じられたばかり。お騒がせぶりは相変わらずだ。

 横審の鶴田卓彦委員長(85=元日本経済新聞社社長)は今場所の日馬富士を「立派な成績」と高く評価する一方で「綱を締めるということは、ただ強いだけではダメだよ。高い品格が求められることを自覚してくれなきゃ困る。朝青龍のことだってある。そういうところまで見習っちゃいけないよ」とクギを差した。日馬富士は朝青龍の横綱としての振る舞いを近くで見てきているだけに、横審としても「横綱なら何をやっても許される」とカン違いすることを危惧しているのだ。角界内で期待と不安が交錯しながら誕生することになった第70代横綱。これからどのような評価を得て相撲史に名を残すかは今後の本人次第だが、果たして…。