「相撲強国」の顔になる。大相撲春場所2日目(14日、大阪府立体育会館)、新大関御嶽海(29=出羽海)が幕内宇良(29=木瀬)を一方的に押し出して快勝。横綱大関陣の中で唯一の連勝スタートを切った。その御嶽海は史上9人目となる新大関Vを目指す一方で、地元では特別な役割を期待されている。それは長野県が長年にわたって抱えてきた〝相撲不毛の地〟のイメージを一新することだ。


 新大関の御嶽海が業師の宇良を一方的に退けて連勝発進した。普段は多弁な男が初日に続き取材に応じなかったのは、今場所にかける気合の表れか。新大関Vなら2008年夏場所の白鵬以来年ぶり。過去に8人しか達成していない快挙へ向けて、好スタートを切った。

 その御嶽海は地元・長野で重要な〝任務〟を背負っている。御嶽海を小学生のころから応援する地元後援会幹事長の村上智明氏は、地元の青年会議所の活動として地元の少年相撲の育成に携わってきた。「私の父親も祖父もいろいろ相撲にかかわってきた。『何とか地元から関取を』と代々みんな頑張っていた」と振り返る。

「長野は相撲自体は盛んなところ。ちゃんとした道場があって、立派な設備がある。いい指導者もそろっている」と自負しているが、長らく肩身の狭い思いをしてきたという。いったい、どういうことなのか。

「アマチュアの全国大会などに行くと、その強さより大相撲で判断されてしまう。(実績で)後れを取る長野は相撲は盛んではないとのレッテルを張られるんですよ。『今に見てろよ。とんでもない関取が絶対出てくるからな』と悔しい思いもしました。そんな時に大道久司君(御嶽海の本名)と出会ったんです」

 大横綱の北の湖や千代の富士らを輩出した北海道を筆頭に全国には「相撲どころ」と呼ばれる地域がいくつも存在する。一方で、長野県は横綱大関どころか、関取さえも御嶽海まで40年以上も誕生しなかった〝不毛の地〟。雷電以来227年ぶりに大関昇進を果たした御嶽海は、地元の相撲少年たちにとって希望の星でもあるのだ。

 それだけに、大関昇進伝達式にも立ち合った村上氏は「いろんなことを思い出しながら、本当にジーンとなった」としみじみ。長野県の相撲に対するイメージを覆すためにも、御嶽海はふがいない姿は見せられない。