〝朝青龍化〟するな――。大相撲初場所で3度目の優勝を飾り、大関昇進を確実にした関脇御嶽海(29=出羽海)に異例の注文が付けられた。悲願だった看板力士の称号を手中に収める一方で、この先は今までとは比較にならないほど大きな重責を担うことになる。そんな中、恩師は勝利至上主義の荒々しい相撲に走らず、これまで通りの「まごころ相撲」を貫くことを熱望。いったい、どういうことなのか。


 御嶽海は初場所千秋楽から一夜明けた24日の会見で「(大関は)意識しないようにしていたが、ちらついていたのは正直ある」と場所中の心境を明かした。その上で自身の目指していく大関像について「近寄りがたい大関と言われたいけど、僕の性格上、無理。フランクな大関でいきたい」と語った。

 長らく大関候補と言われながら、何度も勝負弱さを露呈して足踏み。周囲からの厳しい意見にさらされることもあったが、ようやくの悲願達成となった。長野・木曽福島町立福島中(現木曽町立木曽町中)時代の恩師で長野県相撲連盟の理事長を務める安藤均氏は「周りの方からいろいろ言われて歯がゆい思いがあったはず。でも、周りの意見を参考にしつつ、自分で考えて判断して取り組んできたと思う。ようやくそれが着実な力となって、地力がついてきたのかな」と、自らの力で切り開いた姿を評価した。

 一方で、安藤氏は御嶽海にある教えを叩き込んできた。「相撲は一人では強くなれない。相手あってのもの。木曽の場合は地域の皆さんが協力して相撲ができる環境を整えてくれた。そういうことも含めて、相手あっての相撲だということを大事にしてほしいと常日ごろから言った」

 それは、今でも御嶽海の中に生きている。同氏は「彼はダメ押しをしない。相手が土俵を出た後も、落ちないようにすっと支える姿を見せる」と指摘。象徴的な場面として挙げたのは、新十両で臨んだ2015年7月場所だ。御嶽海は常幸龍(木瀬)との一番で張り手を何発も受けて流血し、最後は土俵下まで転がされた。

「その翌場所で常幸龍関と当たり、押し出しで勝ったんだけど、その時に相手が後ろ向きになった。普通ならダメ押しでどーんと、借りを返しても不思議ではない。でも、関取は相手をすっと支えた。うれしかったですね」(安藤氏)。プロの世界でも教えを守る姿に、感動を覚えたという。

 大関となれば、今まで以上に大きな重責を背負う。生き馬の目を抜く大相撲では、元横綱朝青龍のように「土俵の修羅」にならなければ、命取りになることさえある。しかし、安藤氏は「勝負の世界では甘いかもしれないが(今の)そういう姿は勝負を超えて喜ばしく思っている。プロなので結果がすべてと指摘をする人はいると思うが、そんな心も失わない関取であってほしい」と願いを込めた。

 これからも相手への思いやりを持った「まごころ大関」となることが、何よりの恩返しとなるはずだ。