〝土俵の鬼〟になる。大相撲九州場所千秋楽(28日、福岡国際センター)、横綱照ノ富士(30=伊勢ヶ浜)が大関貴景勝(25=常盤山)を力強く押し出して快勝。自身初の全勝で2場所連続6度目の優勝に花を添えた。名実ともに一人横綱で臨んだ今場所は重責やヒザの古傷など懸念材料もある中、1962年の大鵬以来となる新横綱からの連覇を達成。今後も角界のけん引を期待される横綱は、若手力士の壁となって立ちはだかる決意を口にしている。

 照ノ富士は初の全勝優勝を達成し「今までできなかったのでうれしい。ちょっとずつ理想の相撲になりつつあるのかな」と充実の表情を浮かべる一方で「(理想の相撲が)引退まで100%になることはない。100%に近い相撲を取るために一生懸命やっていきたい」と今後に向けて気を引き締めた。

 元横綱白鵬の間垣親方が9月末に現役を引退。今場所は名実ともに一人横綱となる中、その責任を見事に果たしてみせた。そんな姿に母校の鳥取城北高相撲部コーチで、照ノ富士を指導したレンツェンドルジ・ガントゥクス氏は「大関、横綱と場所ごとに一回り、二回り、大きくなっている。重圧を感じさせない。すでに何場所か(横綱を)経験しているよう」と手放しで褒めた。

 横綱となって初めて10月に母校に凱旋訪問した際には「ゆっくり話をしてヒザの調子も聞いたけど『相変わらずヒザは良くならないし、あとはうまく付き合っていくしかない。悪化しないような取組をするしかない』と言っていた」とヒザの爆弾との共存する覚悟を口にしていたという。

 その上で、横綱として自身の役割も大いに自覚。「『もう上(の番付)もないんでトレーニング、稽古をして、みんなの壁になってしっかりやります。あとは記録をどんどん伸ばしていきたい。体がボロボロになるまでやりたい』とも言っていた。彼の話で常に出るのは稽古のこと。場所が終わって何をする?って聞いても『すぐに稽古します』と。やっぱり努力しているなと感じる」(ガントゥクス氏)

 照ノ富士が場所後もさほど休養を取らずに稽古を開始するのは知られた話。自身のあり方を確実に思い描き、相撲と真摯に向き合う姿に、恩師も感銘を受けている。

 さらにガントゥクス氏は「『うちの親方はすごい。親方のおかげでここまでこられた。自分が下まで落ちてどうなるかというところで、頑張ろうというきっかけをくれた』と、伊勢ヶ浜親方(元横綱旭富士)の話ばかりする。強い信頼を感じる」。強さの裏側にある、師弟の絆の深さをうかがわせた。

 千秋楽翌日の29日が30歳の誕生日の照ノ富士は来年に向けて「2桁の優勝を目指したい。そう簡単ではないので、自分なりに努力して頑張っていきたい」とさらなる野望を口にした。優勝10回に到達すれば、兄弟子の日馬富士(9回)を超え、あの「土俵の鬼」と呼ばれた初代若乃花らに肩を並べることになる。

 自身の役割を強く自覚する横綱の「1強時代」が、この先もしばらく続くことになりそうだ。