快挙の達成は目前だ。大相撲秋場所13日目(24日、東京・両国国技館)、新横綱照ノ富士(29=伊勢ヶ浜)が関脇御嶽海(28=出羽海)を寄り切って11勝目(2敗)。今年の60勝目を挙げて年間最多勝を確定させた。優勝争いでも単独トップを守り、15日制以降では2017年春場所の稀勢の里(現荒磯親方)以来5人目の新横綱Vへ向けても大きく前進。ここまでの奮闘の裏側には〝陰のメンタルトレーナー〟の存在があった。

 照ノ富士が御嶽海を寄り切って単独トップを死守した。初日から8連勝と快進撃を続けていたが、後半戦に入って2敗。この日は勝ったにもかかわらず、報道陣の取材に応じなかった。ヒザの古傷や疲労の蓄積が不安視される中、日本相撲協会の八角理事長(元横綱北勝海)は「気持ちで取っている気がする。相撲が乱れている。あと2日、気力でいくしかない」と指摘した。

 照ノ富士の間垣部屋時代からの兄弟子で、伊勢ヶ浜部屋移籍後の2019年まで付け人を務めた中板秀二氏(元幕下駿馬)も、祈るような思いで新横綱の奮闘を見守っている。両ヒザの故障などで一時は序二段まで転落した照ノ富士を間近で励まし支えてきた同氏は、新横綱で迎えた今場所の初日に国技館まで足を運んだ。

「下に落ちている最中は、やめることしか考えてなくて復活は考えてなかったようだった。一度、気持ちが切れた状態から横綱になるのは並大抵のことじゃない。よく立ち直って、頑張ってきたんだな」と感慨深く雄姿を見守った。

 照ノ富士が横綱として初黒星を喫した9日目の夜には電話で会話を交わしたという。「『土俵入りどうですか?』と聞かれ『格好よかったです』とか、そんなたわいのない話をしました。負けた時は電話が来ることが多いんですよ。気分転換として、一つのルーティンになっているのかもしれませんね」。負けて落ち込みがちな時は、兄弟子の声を聞くことで気持ちを切り替えていることをうかがわせた。

 横綱白鵬(宮城野)の休場で一人横綱としての重圧も背負う中、ここまで照ノ富士は番付最高位としての責任を果たしてきた。中板氏は「緊張するタイプではないので重圧とかはないと思います。土俵入りは最初は少しヒヤヒヤしながら見ていましたが、今は風格も出てきた」と目を細める一方で「つらかった時代を見ているので、やはり一番はケガなく場所を終えてもらいたい」と弟弟子を気遣った。

 新横綱で臨んだ場所も、あと残りわずか。これまで支えてくれた周囲の期待に応えるためにも、最後は賜杯を抱いて締めくくる。