大相撲初場所千秋楽(25日、東京・両国国技館)、横綱白鵬(29=宮城野)が横綱鶴竜(29=井筒)を寄り切り、11度目の全勝V。歴代単独1位の33回目の優勝に花を添えた。今後は記録更新を目指す一方で、注目されるのが白鵬自身の「国籍問題」だ。かねて現役引退後は親方となり、自ら部屋を構える希望を口にしている。親方になるために必要な日本国籍取得も視野に入れているが、取り巻く周囲の事情は複雑極まる。本人にとっても難しい判断を迫られることになりそうだ。

 全勝優勝で大記録達成に花を添えた白鵬は表彰式の優勝インタビューで「(13日目に)優勝してから2日間『もう目標がなくて引退なのかな』といろいろ考えまして」とドッキリ発言。すぐさま「今後はゆっくり休んで(別の)目標を立てて頑張っていきたい。大鵬親方の記録を数字的に超えたかもしれないが、精神的なものはまだまだ」と新たな目標に向かい精進していくことを誓った。

 今場所も終わってみれば独走で2度目の5連覇を達成。まだしばらくは白鵬の1強時代は揺るぎそうにない。その一方で、今後の焦点となりそうなのが「国籍問題」だ。かねて現役引退後は親方になる希望を口にしている白鵬は、3月11日に30歳の誕生日を迎える。これから何年相撲を取るかは別にして、引退後の準備に着手する年齢に差し掛かりつつあるからだ。

 親方になるために必要な年寄名跡を襲名できるのは「日本国籍を有する者」に限られている。著しい功績を残した横綱に与えられる「一代年寄」にしても条件は同様だ。日本相撲協会の北の湖理事長(61=元横綱)は国籍の規定について「伝統ですから。それは大事にしないといけない」と明言しており、変更する考えは全くない。

 白鵬自身も最終的には日本国籍取得を視野に入れている。師匠の宮城野親方(57=元幕内竹葉山)もこの日、「ある程度になったら、きっぱりとこっちの籍を取ると思う。それくらいの気持ちは持っている」と私見を述べた。

 ところが、取り巻く周囲の状況は複雑だ。父親のムンフバトさんはモンゴル相撲の大横綱。1968年メキシコ五輪のレスリングで同国初のメダリスト(銀)にもなった国民的英雄だ。ムンフバトさん自身が白鵬の国籍変更に難色を示しており、この日も表彰式後の支度部屋で「今はそのタイミングではない」と語った。そのうえ、モンゴルの国内世論の“拒否反応”も予想される。

 こうした事情から、白鵬はモンゴル国籍のまま親方になる希望を口にしたこともあったが、現実的には不可能。逆に日本国籍取得に踏み出すにしても、父親の意思や母国の反応を慎重に見極める必要がある。いずれにせよ、申請から国籍の取得まで最低でも1年程度はかかるのが通例。ベテランの域に入る白鵬に残されている時間は、それほど多くない。

 今回の大記録を達成する直前、白鵬に近い関係者は次のように明かしている。「横綱が日本の国籍を取ったとしても“モンゴル人として記録を達成した”という事実は永遠に残る。そのことでモンゴルの人たちに納得してもらいたい気持ちもあるようだ」。デリケートな問題だけに、難しい判断を迫られることになりそうだ。