名横綱が辿った大関昇進の道「スピード出世型」か「大器晩成型」か

2015年01月24日 09時00分

<なんでも統計学:相撲編>平日でも「満員御礼」となるほどの盛り上がりを見せる大相撲初場所の熱気が波及したのか、前回お届けした「なんでも統計学」の大相撲編はおかげさまで好評でした。そこで今回も、経済やマーケットの分析で用いる統計学の専門家・鳥越規央氏に調査を依頼。特別読み物を制作してもらいました。逸ノ城や遠藤が目指す大関への道を、懐かしい名横綱たちはどう通ったのか…。

【大関への高い壁】前回は、遠藤や逸ノ城が大関に昇進するためには「関脇以下との勝率を7割以上とし、取りこぼしをしないようにすることが大事」であることをデータから示しました。今場所を見る限り、いくら怪物とはいえ、大関という地位はそう簡単に手に入れられるものではないこともよく分かります。

 では、歴代の横綱の中でそんな険しい道のりを最も早く乗り切った力士、つまり、新入幕から大関までの昇進スピードが速かったのは誰なのでしょうか。遠藤や逸ノ城を応援する意味でも確認しておきましょう。

【あっさり大関になった過去の名横綱】ご存じの方も多いでしょうが、スピード出世記録のほとんどは第48代横綱大鵬が樹立しています。当然、大関になるのも早く、新入幕からたったの6場所で昇進しました。その過程が表Aです。

 入幕してから1度の負け越しはあるものの、他の5場所ではすべて2桁勝利という驚異的な成績を残しています。当然、前回お話しした大関昇進の目安になるデータ「昇進前3場所における関脇以下との勝率7割以上」も大きくクリアしており、なんと8割6分5厘という高水準です。

 その後、大鵬は5場所で大関を通過。新入幕から11場所での横綱昇進は今も破られないスピード記録となっています。

 歴代横綱の中で、大鵬に次ぐスピード昇進力士3人と、その力士たちの昇進前3場所の対関脇以下の勝率をまとめたのが表B。


 あくまで横綱になった力士に絞ったランキングですのでご注意いただきたいですが、やはり、昇進前は下位力士に取りこぼしていませんよね。遠藤や逸ノ城の健闘を祈りましょう。

【大関昇進までに苦労した横綱は?】では、逆に新入幕から大関に昇進するまでの場所数が多かった横綱を見てみましょう。先ほどと同じく、横綱になった力士に限ったデータです。

 最も時間がかかったのは「おしん横綱」と称された隆の里。1975(昭和50)年夏場所に入幕し、1982(昭和57)年春場所に大関昇進。実に41場所(6年と5場所)かかっています。とはいえ、やはり昇進前3場所の対関脇以下の勝率は7割8分9厘でした。

 その後、9場所で大関を通過。1983(昭和58)年秋場所に第59代横綱に昇進しています。

 初土俵から97場所で横綱昇進という最もスローな出世で有名なのは第57代横綱三重ノ海。新入幕から大関までも38場所かかっています。1973(昭和48)年には関脇以下との勝率を8割にまでしたのですが、その後5割前後を推移。1975(昭和50)年に入って調子を上げ、昇進時には7割超えとなりました。昇進にはいろいろなタイプがいることがよく分かりますよね。

【あの名横綱も…】三重ノ海、隆の里と並んで横綱までの昇進に苦労した横綱として第53代横綱琴櫻の名も挙げられますが、大関までにかかった場所数は28。実はこれ以上かかった名横綱がいるのをご存じでしょうか。意外かもしれませんが、第58代横綱千代の富士がその人です。

 表Cをご覧ください。1975(昭和50)年秋場所に昭和30年代生まれの力士として第1号の新入幕を果たしますが、5勝10敗と大きく負け越し、その後、幕下まで陥落。再入幕は3年後の1978(昭和53)年初場所でした。

 その年は小結まで昇進しますが、上位の壁にはね返され、さらには肩の脱臼が再発して再び十両へ。完治していないにもかかわらず3日目から強行出場し9勝4敗2休と勝ち越し、1場所で幕内に返り咲きました。

 3度目の入幕以降は10場所で大関昇進を果たしていますが、このような計算では十両にいた期間の本場所も数字に入れますので、新入幕から数えると33場所となりスロー出世の部類に入ります。

 なお、大関昇進直前の場所では14勝1敗で優勝を飾っていますが、1敗は北の湖との本割での勝負によるもの。関脇以下とは11勝0敗。直近3場所での勝率は8割6分7厘と大鵬の勝率を超えています。さすがですよね。

 さて、ここまでお読みになってお気づきになりましたでしょうか。実は、入幕から苦労して大関になった横綱として挙げた3力士は

 第57代 三重ノ海
 第58代 千代の富士
 第59代 隆の里

 3代続いているんですね。

☆とりごえ・のりお=1969年大分県生まれ。筑波大学大学院数学研究科修了。統計学者としてテレビやラジオ、コラム執筆など多方面で活躍中。特に野球のデータを統計学的見地から分析して選手の評価などを行う「セイバーメトリクス」の分野では第一人者である。