数字で見る逸ノ城と遠藤「大関昇進確率」

2015年01月14日 16時00分

<なんでも統計学:初場所分析>統計で数字をはじき出すことによって経済やマーケットは分析することができる。同じことをスポーツに転用できないか…ということで、昨年は競馬に関する特別編をお届けした当コーナー。今回は、おなじみ統計学者・鳥越規央氏が、初場所真っ最中の大相撲を分析する。

 経済をはじめ、多くの事象の分析に使える統計学。私はプロ野球のデータ分析も得意なのですが、今回は大相撲を取り上げてみようと思います。

 一時期よりもだいぶ人気が復活してきたそうでうれしい限りです。昨年行われた全6場所の大入り数は計58日間(前年比18日増)。これは貴乃花と曙が君臨していた1997(平成9)年以来の数字だそうですね。

 その原動力は何といっても逸ノ城や遠藤といった新進気鋭の力士の台頭。今回は統計学及びデータから、その2人が“大関に昇進するために必要なもの”を探っていこうと思います。

【よくいわれる条件は…】大関昇進の目安は昇進前3場所で三役に在位し、33勝以上を挙げることとされています(明文化はされていません)。つまり、1場所平均11勝以上。現在横綱と大関が合わせて6人ですから、残り9日は関脇以下の力士との対戦になります。この9番でいかに取りこぼしをなくすかが重要となります。

 では、そもそも大関は関脇以下の力士にどれぐらい勝っているものなのでしょうか。八百長問題による本場所の中止があった後、2011(平成23)年名古屋場所以降における大関の対関脇以下との勝率(別表A)をご覧ください。このデータから大関とは「関脇以下に対して7割以上の勝率を残す存在」だということが分かります。

 琴奨菊は大関昇進後、けがの影響で本調子と言えない状況が続いていますが、2013(平成25)年秋場所までのデータでは勝率は7割3分1厘。つまり、「関脇以下に対して7割以上の星を挙げられるようになった力士が大関になれる」とも言えるわけです。

 昨年の大関昇進の際、その前の3場所の勝ち星が33に届かなかったことが話題になった豪栄道も、その3場所の関脇以下との勝率はしっかりと7割を超えています(7割6分7厘)。

 ちなみに、現在、上位にいる力士たちの大関昇進前3場所での関脇以下との勝率がB。すべて7割5分超えという安定ぶりです。

 なお、横綱ともなれば、関脇以下にはもっと負けません。2011(平成23)年名古屋場所以降における横綱の対関脇以下の力士との勝率はCの通り。すべての力士が8割を超えています。特に白鵬の勝率は驚異的。あの圧倒的な強さの秘訣は下位に取りこぼさないことにあるようですね。

 

【遠藤と逸ノ城】では、これから角界の頂点を目指す2人の力士について分析してみましょう。

 昨年1年間、遠藤の関脇以下との勝率は5割8分9厘。また、直近3場所も平幕という位置ながら、関脇以下との対戦成績が6割を超えていません。まずはこの数字を7割に引き上げることが必要となってきます。

 なお、先場所は中日から千秋楽まで8連勝でトータル10勝5敗と調子を戻しつつあるようです。まずはしっかり足元を固めて取りこぼしのないようにすることが三役昇進のカギとなると思います。

 さあ、逸ノ城はどうでしょうか。新入幕の2014(平成26)年秋場所は13勝2敗で、関脇以下との対戦に限ると11戦10勝。飛び級で関脇に昇進した九州場所は上位陣との対戦が増えて苦戦が予想されましたが、終わってみると8勝7敗で勝ち越し。横綱、大関との対戦は6戦1勝でしたが、関脇以下との対戦に限ると9戦7勝で、ほとんど取りこぼしをしていないことが分かります。

 新入幕後2場所での関脇以下との勝率は8割5分と驚異的な数字。これはもう横綱クラスの安定感と言えるでしょう。「黒船襲来」と呼ばれた6代目小錦(現KONISHIKI)が入幕2場所目で千代の富士、隆の里の両横綱から金星を奪取し、12勝3敗で準優勝を成し遂げた1984(昭和59)年秋場所と翌場所における関脇以下との勝率が8割ですから、それをすでに超えているのです。このことからも逸ノ城の怪物ぶりが分かります。

【ちなみに…】せっかくなので、逸ノ城が関脇以下との勝率8割5分をキープし、横綱、大関と互角の力を備えることができた場合、初場所で10勝以上できる確率を調べてみました。

 用いたのは、「二項分布」という確率分布の確率算出公式。高校の数学で学んだことのあるはずの確率分布のひとつ(現在は数学Bで履修)で「さいころを5回投げて1が出る確率」や「コインを10回投げて表が5回出る確率」などを求めるときに使ったアレです。

 結果は、10勝以上の確率がなんと76・6%(11勝以上の確率は54・9%、12勝以上は30・9%、13勝以上12・4%、14勝以上3・1%、全勝0・4%)。かなり期待できそうです。

 ただし、大関昇進の目安となる3場所33勝以上を挙げるには、この初場所と春場所で25勝以上が必要で、それをクリアできる確率は7・8%になります。確率的にはまだまだ厳しい状況ではありますが、これを乗り越えられる怪物ぶりを期待したいものです。

☆とりごえ・のりお=1969年大分県生まれ。筑波大学大学院数学研究科修了。統計学者としてテレビやラジオ、コラム執筆など多方面で活躍中。特に野球のデータを統計学的見地から分析して選手の評価などを行う「セイバーメトリクス」の分野では第一人者である。