日本相撲協会は21日午前、東京・両国国技館で大相撲秋場所(9月12日初日、国技館)の番付編成会議と臨時理事会を開き、大関照ノ富士(29=本名ガントルガ・ガンエルデネ、伊勢ヶ浜)の横綱昇進を正式に決定。相撲協会からの使者が東京・江東区の伊勢ヶ浜部屋で照ノ富士と師匠の伊勢ヶ浜親方(61=元横綱旭富士)に横綱昇進を伝えた。故障や病気で一度は“地獄”を見ながらも奇跡のV字復活。人間的にも大きく成長した令和初の新横綱が、角界をけん引する。

「第73代横綱照ノ富士」が正式に誕生した。新横綱誕生は2017年初場所後の稀勢の里以来4年ぶり。大関陥落を経験して横綱に昇進するのは昭和以降で三重ノ海以来2人目で、序二段まで転落した力士となると史上初の快挙だ。モンゴル出身力士としては朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜に続いて5人目となった。

 照ノ富士は両ヒザの故障や内臓疾患などで一時は看板力士の大関から序二段まで転落。師匠の伊勢ヶ浜親方に何度も引退を申し出た。関係者によると、そのたびに親方は1時間かけて照ノ富士を説得。粘り強く対話を重ねて再び視線を向けさせた。番付を転げ落ちていく過程の中で「元大関」のプライドも捨て去った。

 元十両徳真鵬で朝日大相撲部コーチの白塚元久氏(37)が明かす。「初対面は2018年、照ノ富士関が十両に落ちたころだと思います。私がリハビリとトレーニングを兼ねてプールウオーキングをするため墨田区総合体育館に行った際、大関は付け人と2人で来ていました。ただ、私がトイレに入った後もついてきて目が合うと、何事もなかったかのように立ち去ったのを覚えています」

 ところが、翌年に幕下の支度部屋で再会すると照ノ富士の態度が一変。「その日の対戦相手が私と同部屋だったこともあり『立ち合いどうやって来ますか?』と聞いてきて。対戦相手のことは事前に研究しているはずなので、私の緊張をほぐしてくれたのだと思います。それから、ベンチプレスで何キロ上げられるまで回復したことなど、支度部屋でまわしを巻くまで話しかけてくれたり。(本来は)明るくて、人懐っこい性格だと思いました」と振り返った。

 交流は現在も続いており、今場所前には照ノ富士が朝日大相撲部に米を100キロ差し入れたという。白塚氏は奇跡のV字復活を果たした新横綱へ向けて「照ノ富士関の姿は日本国内だけでなく、世界中の頑張っている人に希望や勇気をあたえていると思います」とエールを送った。

 どん底から番付の頂点まで駆け上がった照ノ富士は「もう一回、気持ちを入れ替えて頑張っていきたい」と気合十分。令和初の新横綱が、角界を引っ張っていく。