“噂の怪物”が、ついに幕内でベールを脱いだ。大相撲秋場所3日目(16日、東京・両国国技館)、新入幕の逸ノ城(いちのじょう=21、湊)が幕内栃煌山(27=春日野)を寄り切って3連勝。三役通算16場所を務めた大関候補の一角の実力者を難なく撃破した。まだ入門5場所目の新星は「三役経験者? やっぱり強い。自信になります」。ザンバラ髪で、あどけなさが残る瞳の奥を怪しく光らせた。

 モンゴルの遊牧民出身。身長192センチ、体重199キロの巨体と怪力ぶりに、日本相撲協会の北の湖理事長(61=元横綱)をして「上位に定着する力を持ったら怖い。いや怖いというより、みんな勝てなくなる」と言わしめたほど。まだまだ技術面では粗削りだが、それが逆に末恐ろしい。

 今場所の快進撃を予感させる出来事もあった。今月9日、二所ノ関一門の連合稽古でのことだ。

 逸ノ城は一門外から出稽古に参加したが、関取衆の申し合いが始まると関脇豪風(35=尾車)をはじめ、松鳳山(30=松ヶ根)、高安(24=田子ノ浦)ら三役経験者を次々と退けてしまった。関取衆は初めこそ負けて苦笑いを浮かべる余裕もあったが、逸ノ城が連戦連勝を重ねるうちに、みるみる顔つきが一変。横綱を倒したこともある猛者たちが、われ先にと新入幕力士の稽古相手を買って出た。

 まるで横綱や大関に胸を借りるかのような光景に、それまでゲキを飛ばしていた二所ノ関一門の親方衆も水を打ったように静まり返ってしまった。出稽古に同行した逸ノ城の師匠の湊親方(46=元幕内湊富士)は、こう言った。「まだまだ、これからですよ。(入門して)4場所しかやってないんだから」。怪物の快進撃に期待が集まる。