偉業の舞台裏でまさかの空気――。大相撲名古屋場所千秋楽(27日、愛知県体育館)、横綱白鵬(29=宮城野)が2場所連続30回目の優勝を果たした。V30の大台到達は大鵬(32回)、千代の富士(31回)に続く史上3人目となった。一方、歴史的な偉業達成にもかかわらず、角界内は意外なほど無反応。2006年初場所の栃東(現玉ノ井親方)以来8年半も遠ざかっている日本人力士の優勝がまたしても持ち越しとなり、何とも言えぬ微妙なムードが漂っているのだ。

 白鵬は千秋楽の結びで横綱日馬富士(30=伊勢ヶ浜)に有利な体勢に持ち込まれながら、地力を発揮。渾身の上手出し投げで下し、13勝目を挙げた。同じ2敗の大関琴奨菊(30=佐渡ヶ嶽)が結びの前に関脇豪栄道(28=境川)に敗れていたため、通算30回目の優勝が決まった。史上3人目の大台に到達した白鵬は「昭和の大横綱2人、大鵬関と千代の富士関に肩を並べた景色にいる自分が幸せ」と喜びをかみしめた。


 自身が幕内優勝24回の“昭和の大横綱”だった日本相撲協会の北の湖理事長(61)も「白鵬の30回は立派だ。次は大鵬さんの回数を目標にして、一つひとつ、やっていってほしい」とたたえ、角界の金看板の大鵬超えに期待を寄せる。


 一方で、歴史的とも言える偉業の大きさに比べると、角界内の反応は驚くほど小さい。土俵は相変わらず白鵬の“一人勝ち”が続き、大台到達は時間の問題ととらえられていたからだ。


 実際、日本相撲協会の幹部は千秋楽の中入り前に「琴奨菊にも優勝してもらいたいし、豪栄道にも大関になってもらいたい。どちらもダメなら…最悪。全く盛り上がらない」と本紙に“本音”を吐露している。白鵬の大台の話題など完全に“スルー”していたほどだ。

 今回の名古屋場所では15年ぶりとなる大入り10回を記録。上向きの相撲人気にさらに拍車をかけるためには日本出身力士の復権が欠かせない。幕内遠藤(23=追手風)や大関稀勢の里(28=田子ノ浦)が人気を集めるのも、その期待感からだ。豪栄道の大関昇進が確実となり「最悪」のシナリオこそ避けられたものの、結果的に8年半ぶりの日本人優勝はまたしても“お預け”に…。またとないチャンスだっただけに、角界内には何ともビミョーな空気が充満しているのだ。


 ファンの反応も同様だった。結びの一番では、満員札止めとなった館内の観客から「日馬富士コール」が起こった。もちろん日馬富士が勝てば、白鵬と琴奨菊、豪栄道が3敗で並ぶため、優勝決定の巴戦を期待してのもの。5月の夏場所でも白鵬と稀勢の里の決定戦を望むファンが同様の反応を見せており、純粋に日馬富士を応援していたわけではないことは明らかだ。


 今回の豪栄道の大関昇進で、モンゴル人の3横綱に日本出身の3大関が対抗する構図となった。果たして“国産勢”が一矢を報いる日は、本当にやって来るのか。