大相撲春場所13日目(21日、大阪府立体育会館)、綱取りに挑む大関鶴竜(28=井筒)が大関稀勢の里(27=田子ノ浦)を突き出しで破り、1敗をキープ。横綱白鵬(29=宮城野)が初黒星を喫したため、トップに並んだ。鶴竜の初優勝が現実味を帯びるなか、角界内では、綱取りへの慎重論も出ている。

 過去10勝24敗と分が悪かった稀勢の里から12勝目を挙げた鶴竜は「今までやってきたことが経験として生きている」と胸を張った。14日目の白鵬との直接対決に向け「変わらない気持ちでいきます。目の前の一番に集中していく」と引き締め、最終的に勝負が決する千秋楽まで諦めない姿勢を見せた。

 1月の初場所では優勝決定戦で白鵬に敗れたものの14勝を挙げ、今場所は綱取りに挑んでいる。横綱審議委員会は「13勝以上での優勝」を昇進の条件としており、この日の勝利で、少なくとも勝ち星では“王手”をかけた格好だ。

 ところが角界内では、綱取りに向けた機運は盛り上がっていない。審判部長の伊勢ヶ浜親方(53=元横綱旭富士)は鶴竜の綱取りの可能性について「全部終わってみないと、何とも言えない。今からそんな話をしてどうするの? 残りを全部負けたらどうするの」と慎重な姿勢を崩さない。

 その理由は、今場所の相撲内容にある。初日に平幕の遠藤(23=追手風)に辛勝した相撲をはじめ、場所の序盤は引いたり、はたいたりする“悪癖”が目立った。伊勢ヶ浜親方も「前半は引いてばっかり。『この相撲じゃいかんな』と思っていた」と話す。一方で「中盤からは前に出るようになってきた」とも付け加えたが、この期に及んでも鶴竜の「本当の実力」を測りかねている様子がうかがえる。

 北の湖理事長(60=元横綱)も「まだ最後まで見ないと、分からない」。角界では過去に例がないほどの“静かな綱取り”。果たして、どんな結末が待っているのか。