看板力士の役割を果たせるか。大相撲11月場所9日目(16日、東京・両国国技館)、大関初優勝を目指す貴景勝(24=千賀ノ浦)が幕内翔猿(28=追手風)のはたき込みに屈して痛恨の初黒星を喫した。角界内では白鵬(35=宮城野)と鶴竜(35=陸奥)の両横綱に対する〝引退圧力〟が急速に強まる中、大関陣で唯一出場する貴景勝は新たな横綱候補の1番手。これ以上の取りこぼしは許されない。

 初黒星を喫した貴景勝は「何も言うことはない。負けたので、必ずどこかに負けた原因がある」と険しい表情を浮かべる一方で「勝つつもりでやっているし、もう終わったので。明日集中してやるしかない」と気持ちを切り替えた。これで全勝が消えて1敗に貴景勝を含む3人、2敗に3人。今後の展開次第では3敗勢にもチャンスがあるだけに、優勝争いは混沌とした状況となった。

 今場所の貴景勝は、これまで以上に看板力士としての真価が問われる。白鵬と鶴竜の両横綱は2場所連続で初日から不在。ともに今年の5場所(5月の夏場所は中止)で4度目の休場となった。日本相撲協会の幹部も、度重なる休場には堪忍袋の緒が切れる寸前。普段は寛容な尾車事業部長(63=元大関琴風)でさえ「(来年の初場所は)進退をかけて出てこないとダメだ」と発言したほどだ。

 芝田山広報部長(58=元横綱大乃国)も「2人とも今年の皆勤は1度だけ。あり得ない。(白鵬は)1回優勝しているからいいという問題ではない。横綱の責任を自覚してもらわないと。1日でも長く土俵に上がるとか、われわれのころにはなかった。(私は)4場所休場で〝給料泥棒〟と呼ばれた。潔さを求められる。横綱は毎場所、進退をかけて土俵に上がるもの」と切り捨てた。

 横綱審議委員会も今場所後の会合で「引退勧告」などの決議を下す可能性もあり、かつてないほど両横綱に対する〝引退圧力〟は強まっている。とはいえ、両横綱が近いうちに引退したとしても新たな横綱が誕生しなければ本当の意味での「世代交代」とは言えない。大関朝乃山(26=高砂)と新大関の正代(29=時津風)も休場しているだけに、貴景勝が背負う期待と責任は大きい。

 横綱昇進の条件は2場所連続優勝か、それに準ずる成績。番付上の格上や同格が不在の今場所は貴景勝にとって「優勝=横綱挑戦権」を得るチャンスでもある。貴景勝は場所前に「とにかく優勝したい」と強い意気込みを口にしていたが…。果たして、どうなるか。