大相撲秋場所(東京・両国国技館)が不安を抱える中で幕を開けた。今場所は玉ノ井部屋で新型コロナウイルスの集団感染が発生し、所属する28人の力士は陰性者を含めて全員が休場する事態となった。一方で、時津風親方(46=元幕内時津海)と松ヶ根親方(46=元幕内玉力道)が不要不急の外出を禁じるガイドラインに違反したため、相次いで謹慎。指導者の資質が問われかねない行動が波紋を広げている。

 日本相撲協会の八角理事長(57=元横綱北勝海)は初日恒例の協会あいさつで「場所前、相撲部屋において多数の感染者が判明し、皆さまに多大なご心配をおかけしましたこと、深くおわび申し上げます」と謝罪した上で「より一層、安全、安心な大相撲観戦を目指して感染対策を徹底し、感染拡大防止に努めております」と改めて感染防止への決意を語った。

 角界全体が新型コロナウイルス対策に神経をとがらせる中で、細心の注意を払っていても完全には防ぎ切れないのがウイルスの怖さ。今回の玉ノ井部屋のように、出場したくてもできない力士たちが生まれる悲劇が起きた。一方で、気の緩みとしか言いようがない出来事もあった。親方衆の一部が不要不急の外出を禁じるガイドラインに違反。今場所中は謹慎する事態となった。

 これでは、日頃から指導を受けている側にも示しがつかない。実際、今も大半の力士たちは感染拡大を防ぐ努力を続けている。相撲協会は7月場所後に外出制限を一時的に緩和。師匠の許可を得た上で帰省することが可能になった。しかし、地方出身の関取衆の多くは、帰省することを自主的に控えていたという。格好のリフレッシュの機会にもかかわらず、なぜ東京にとどまったのか。

 関取衆の一人は「家族のことが心配。うつしたくない」。別の幕内力士も「地元に迷惑をかけたくない」と理由を語った。自らが感染するリスクだけではなく、家族や郷里の人々に感染させてしまう危険性を考慮して泣く泣く帰省を断念していたのだ。今回の親方衆の軽率な行動は、こうした力士たちの思いを裏切ることになった。

 7月場所中には幕内阿炎(26=錣山)の「夜の店通い」と田子ノ浦親方(44=元幕内隆の鶴)の〝泥酔写真騒動〟が発覚。それぞれ懲戒処分を受けた。さらにここへ来て親方衆の自覚を欠く行動が目立ち始めたのは気になるところ。新たなルール違反が明るみになれば、秋場所の盛り上がりにも大きく水を差しかねない。果たして、今回は15日間を平穏無事に乗り切ることができるのか。