【大相撲】通報者を「悪者」扱い…パワハラ中川親方〝大甘〟処分の闇

2020年07月14日 11時00分

2階級降格となった中川親方

 日本相撲協会が弟子に対して不適切な指導を行った中川親方(54=元幕内旭里)に対して「2階級降格」の懲戒処分を下し、波紋を呼んでいる。中川部屋は閉鎖されることになったが、中川親方は弟子に平手打ちや蹴りなどの暴力を振るった上に「ぼんくら」「殺すぞ」などと暴言を連発していた。社会的には到底許されない理不尽な行為にも懲戒解雇や退職勧告の厳罰ではなく、なぜ降格の処分で落ち着いたのか。まさかの“大甘処分”の背景とは――。


 相撲協会が中川親方による不適切な指導の内容を公表した。同親方は今年2月、弟子Aに対してちゃんこをこぼさずに運ぶように注意した際、顔面を右の拳で1回殴打。3月の春場所中には弟子Bの仕事の不手際に立腹して背中を1回蹴り、顔面を左の平手で1回叩いた。別の場面ではBが居眠りをしていたことに腹を立て、正座をさせながら説教。腹を3回蹴り、胸を拳で2回殴打した。

 昨年夏ごろには弟子Cが出稽古から戻ってあいさつに来た時に「浴衣の帯の結び方が汚い」などと言って、左こめかみを拳で1回殴打。3人にはいずれもケガはなかったという。さらに中川親方は前出3人の弟子に対して日常的に「ぼんくら」「クビにするぞ」「殺すぞ」「本当にうざいんだよ」などと暴言を繰り返していた。

 相撲協会は中川親方が師匠として不適格と判断。中川部屋を閉鎖とする一方で、師匠本人が深く反省して弟子に謝罪していることや、暴力行為に道具を使用していない点などを考慮。委員から平年寄へ2階級の降格処分とした。相撲協会の懲戒は重い順から懲戒解雇、退職(引退)勧告、降格、業務停止、出場停止、報酬減額、けん責の7段階と定められている。

 中川親方の一連の行為を見る限り、一般企業であれば懲戒解雇や退職勧告といった厳罰が下されてもおかしくはない。しかも、相撲協会は元横綱日馬富士による傷害事件を契機に「暴力禁止規定」を制定。暴力行為に対して「横綱は引退勧告以上」などの基準を設け、八角理事長(57=元横綱北勝海)は「現役よりも親方衆は(処分を)厳しくしなければならない」と明言している。

 それなのに…今回の“恩情処分”の背景には何があるのか。協会幹部の親方の一人は「今は軽く叩いても『暴力』で、ちょっとでも厳しく言うと『パワハラ』になる。これでは何も教えられない」と本音を吐露。あるベテラン親方も「全部をクビにしていたら、協会から親方が誰もいなくなってしまう」と降格処分に理解を示した。

 暴力や暴言はいつの時代でも決して許されるものではないが、角界では長らく“鉄拳制裁”が一般的だったことは紛れもない事実。よほど悪質でもない限り、多少の行き過ぎには目をつぶる体質が根強くあるということだ。実際、角界内では今回の中川部屋の一件で相撲協会への通報を主導したと見られる人物に対して「やり過ぎだ」と非難する声まで上がっているというから、“闇”は深い。

 今回の協会の処分により、中川親方は時津風部屋付きとなり、中川部屋の9人の力士は6つの部屋に“離散”することになった(1人は引退)。八角理事長は「この度、相撲部屋で師匠による暴力が起きたことを、深く反省しております。指導者の暴力は、一番あってはならないことです」との談話を発表。今後は師匠に対する指導セミナーや弟子育成マニュアルの作成など再発防止の強化策を示したが…。いったい角界の暴力根絶はいつになるのか。