角界が悲劇に見舞われた。日本相撲協会は新型コロナウイルスに感染して入院治療を受けていた三段目力士の勝武士さん(しょうぶし、本名・末武清孝=高田川)がコロナウイルス性肺炎による多臓器不全のため13日午前0時半に都内の病院で死去したことを発表した。28歳だった。葬儀、告別式は未定。大相撲の力士が新型コロナの犠牲者となったのは初めてで、新型コロナ感染での死者は日本の主要スポーツのアスリートでも初となった。角界内に衝撃が広がる一方で、現役の医師は力士の生活習慣に警鐘を鳴らした。

 勝武士さんは4月4日から38度台の高熱を発症。師匠の高田川親方(53=元関脇安芸乃島)らが保健所に電話をかけ続けたが、連絡がつかなかったという。並行して東京・江東区にある部屋近隣の複数の病院にも相談したが、受け付けてもらえなかった。8日には熱が下がらず血痰の症状も出たため救急車を呼んだものの、なかなか受け入れ先が見つからず搬送は難航した。

 夜になって都内の大学病院に入院。9日に症状が悪化したため、都内の別の大学病院に転院した。10日にPCR検査で陽性と判定され、角界で初めて感染が確認された。その後に病状が悪化して集中治療室で治療を受けていたが、最後は帰らぬ人となった。新型コロナ感染者で20代以下が死亡したのは、年齢が明らかになっている中では日本国内で初とみられる。あまりにも早過ぎる死に角界内では衝撃が広がっている。

 かねて勝武士さんは糖尿病の持病があり、重症化が心配されていた。力士にとって糖尿病は“職業病”の一つ。親方の一人は「糖尿病は珍しい病気じゃない。(新型コロナに感染すれば)誰が重症化してもおかしくない」。20人以上の力士を育てる師匠も「他の病気でも、糖尿病を持っていると治りが遅い。感染しないように、さらに敏感にならないといけない」と警戒感を強めた。

 その一方で、現役医師は力士の生活習慣そのものに警鐘を鳴らす。医療法人社団昌静会理事長の金村良治医師は「糖尿病は2種類あって、遺伝性のものとそうでないものがある。非遺伝性のものは食生活が原因。力士は体を大きくすることが仕事とはいえ、肥満自体は決して健康とは言えない。職業柄、どうしても体形的にハイリスクになってしまう。心臓が悪かったり、不整脈があったりしたのかもしれない」と見解を述べた。

 一般的には新型コロナは高齢者に比べて若年層は重症化する危険性は低いと見られている。糖尿病を抱えていたとはいえ、一般人よりもはるかに体力のある20代の力士が命を落としてしまったことの衝撃は計り知れない。金村医師は「やはり特別な人たちですから。普通の会社であれば1年に1回の健康診断でいいですけど、相撲界はこれまで以上に念入りに検査することを考えてもいいかもしれません」と話し、さらなる健康管理の強化を提言した。

 相撲協会は5月の夏場所の中止を決定。7月場所(7月19日初日)は名古屋から東京(両国国技館)へ会場を変更し、無観客開催を目指している。また、協会員の希望者全員を対象に新型コロナの抗体検査を実施することを決め、検査結果を新型コロナ対策に活用する方針だ。いずれにせよ、犠牲者が出たことで力士らに動揺が広がることが予想される中で無事に7月場所を迎えることができるのか。角界のコロナ禍との闘いは、今後も続くことになりそうだ。