大相撲の元大関豪栄道の武隈親方(33)が「引き際の美学」を語った。大関カド番で臨んだ初場所は5勝10敗で負け越し、関脇への転落が決定。先場所限りで現役引退を決断した。

 引退会見(29日)では「数年前から大関から落ちたら引退しようと心に決めていた。相撲を取る気力がなくなった。迷いはなかった」とすっきりした表情。大関の場合、関脇に転落した場所で10勝すれば1場所で大関に復帰できる救済措置がある。関脇からの復活を一度も目指さずに引退したのは魁皇(現浅香山親方)だけ。大関の地位のまま引退した力士も3人しかいない(いずれも平成以降、解雇を除く)。大半の力士が復活の“ワンチャンス”にかけるだけに、いかに豪栄道が異例の決断を下したかが見て取れる。

 しかも、大阪出身の豪栄道にとって次の春場所(3月8日初日、大阪府立体育会館)はご当所。引退を惜しむ声は多く、母校の埼玉栄高・山田道紀監督からも慰留されていたという。それでも、豪栄道は「楽しみに待ってくれる大阪の人たちには申し訳ないんですけど、皆さんの前で気力のない相撲を取るわけにはいかない」ときっぱり。

「自分で決めたこと。続ければ、この先の人生で自分に甘えが出る。自分を追い込んでやったからこそ、ここまできた(歴代10位の大関在位33場所)。その気持ちがなければ、何年か前にやめていた」と固い意思を口にした。大関昇進時に「大和魂を貫く」と口上を述べた豪栄道は「我慢強く、潔くというのが大和魂。自分の中でやり通せたと思う」。また一人、昭和の男が土俵を去った。