日本相撲協会は16日、8日に新潟・糸魚川市で行われた大相撲秋巡業で、立呼び出しの拓郎(63=春日野)が幕下格と序二段格の呼び出し2人に対して暴力を振るったと発表した。

 協会によれば、序二段呼び出しが巡業会場で客席の椅子に座って食事をしていたところ、拓郎が「なんで、こんなところで食事をしているんだ」と頭部を拳で1回殴った。さらに、近くにいた幕下呼び出しに「兄弟子が見ていて、なぜ注意しないのか」などと言い、背中を1回叩いた。

 幕下呼び出しが協会職員に報告。これを受けた春日野巡業部長(57=元関脇栃乃和歌)が事情を聴いたところ、大筋で認めて拓郎が後輩2人に謝罪。同巡業部長は拓郎に自宅謹慎を言い渡した。その後、拓郎は「退職して責任を取りたい」との意向を示しているという。ただ、協会はこれを預かりとし、コンプライアンス委員会に事実関係の調査と処分意見の答申を委嘱した。

 角界では元十両貴ノ富士(22)が2度目の暴力行為で引退したばかり。「立呼び出し」は呼び出しの最高位だけに、本来ならば手本になるべき立場だ。しかも協会は「暴力根絶」に力を入れてきたはずだが、なかなか再発防止への道筋を描けないのが実情だ。

 そうした中、ネット上では「暴力は当然悪い」との声が多く上がる一方で、2人にケガがなかったことで「呼び出しにも落ち度があったのでは?」「ゲンコツなら昔からよくある愛のムチ」などとの意見も出ている。実際、角界では土俵上で「かわいがり」(厳しい稽古)が常態的に行われており、「指導」や「しつけ」と、暴力との線引きがあいまいになってきたのは確かだ。

 芝田山広報部長(57=元横綱大乃国)は「みんなが注意を重ねないといけない」と語ったが、暴力根絶には角界の伝統やしきたりを根底から覆すくらいの改革が必要だろう。