日本相撲協会から付け人に対する暴力行為などで自主引退を促されている十両貴ノ富士(22=千賀ノ浦)が27日、都内で会見を行い、自ら引退を選択する意思がないことを明言した。師匠の千賀ノ浦親方(58=元小結隆三杉)から反対されていた会見を強行するなど、師弟関係は完全に崩壊。昨年9月の秋場所後に千賀ノ浦部屋が貴乃花部屋を吸収合併して1年が経過したが、前師匠の元貴乃花親方(47=元横綱、花田光司氏)の“負の遺産”が改めて浮き彫りとなった。

 弁護士同席でこの日の会見に臨んだ貴ノ富士は「暴行について深く反省しています。(若い衆への差別的な言動も)本当に申し訳なく思っています」と謝罪する一方で「今回の処分(自主引退)はあまりに重く、受け入れられません。私には相撲しかありません。土俵に戻って、相撲道に精進したい」と話し、協会側が促している自主引退には応じない構えを見せた。

 現役続行に強くこだわる背景として角界内でささやかれているのが、貴乃花部屋と千賀ノ浦部屋の力士間の“内部抗争”だ(本紙昨報)。会見では、若い衆への差別発言について、貴乃花部屋がなくなって千賀ノ浦部屋に移った際に、もともと千賀ノ浦部屋にいた兄弟子たちが、若い衆に対して差別発言をしていたことを明かした。

 一連の差別発言の「名付け親」はあくまでも千賀ノ浦部屋の兄弟子たちで、自分だけが罰せられるのはおかしい…。そんな思いがあったのか。もちろん、貴ノ富士が差別発言をした事実を認めている以上、正当化の根拠にならないことは言うまでもない。

 さらに協会が実施している暴力の再発防止を目的とした研修会についても「(参加者には)正直、伝わっていない」と疑問を投げかけた。その理由を問われると「(若い衆に)言葉で何回言っても伝わらない場合、手を出さない代わりにどう指導したらいいのか。(研修会では)教えてもらっていない」。言葉で理解させられない場合は暴力もやむなしとの考え方も透けて見える。

 付け人への暴力は、今回で2度目。前回は貴乃花部屋に在籍していた時(昨年3月)の蛮行だった。兄弟子の元幕内貴ノ岩(29)も付け人への暴力で昨年12月に引退している。どちらも貴乃花親方の教え子という事実は、単なる偶然では片づけられない。実際、本紙が5日付で報じたように、角界内では退職から1年たった今でも前師匠の責任を問う声は少なくない。

 しかも、この日の会見は現師匠の千賀ノ浦親方の反対を押し切って強行した。貴ノ富士は「親方には引退届を出せと言われ続けていた。親方に相談しても、そういう話にしかならないと思った」と説明した。

 貴乃花親方は、相撲協会の体質改善を求める告発状を独断で内閣府へ提出し、同志だった親方衆の心は急速に離れていった。身内を信用せずに行政や司法に訴える手法は師匠と同じ。果たして、師弟関係を壊してまで強硬手段に出たメリットはあるのか。今後の動向に注目が集まる。