角界期待のニューヒーローにまさかの事態…。大相撲秋場所千秋楽(22日)に左胸付近を負傷した関脇貴景勝(23=千賀ノ浦)が23日、都内の病院で精密検査を受け「左大胸筋肉離れ、加療6週間」と診断された。これまで多くの力士が苦しんだ大ケガだ。引退に至ったケースもあるだけに、貴景勝にとっては“致命傷”となりかねない。秋場所で12勝3敗の好成績を残して1場所での大関復帰を決めた矢先、力士生命が脅かされる危機に直面している。

 貴景勝は秋場所千秋楽で、関脇御嶽海(26=出羽海)との優勝決定戦の取組中に左胸付近を負傷した。この日、師匠の千賀ノ浦親方(58=元小結隆三杉)は東京・台東区の部屋で報道陣に対応。貴景勝が都内の病院でMRI検査を受け「左大胸筋肉離れ、加療6週間」と診断されたことを明かした。手術を受ける予定はないという。

 貴景勝は秋場所で優勝こそ逃したものの、12勝を挙げて1場所での大関復帰を決めていた。その矢先に起きたまさかのアクシデントに千賀ノ浦親方は「(突き押しを繰り出した時に)自分の力でやってしまった感じ。(ケガの箇所は)初めてのところ。(大関復帰を決めて)ひと安心していたのに、まさかこんな形になるとは…」と沈痛な表情を浮かべた。10月の秋巡業は全休する見通し。

 次の九州場所(11月10日初日、福岡国際センター)の出場についても「それはまだ言えない。とにかく治療をしていくしかない」と話したが、休場する可能性は高い。実際、これまでに多くの力士が大胸筋のケガに苦しめられてきた。元横綱稀勢の里(33=現荒磯親方)は一昨年3月の春場所で左大胸筋と左上腕二頭筋を損傷。その後は休場を繰り返し、今年1月の初場所で現役を引退している。

 ちなみに「肉離れ」も「損傷」も、筋肉の繊維が切れている点で同じ。「部分断裂」とも表現される。治療で回復したとしても、筋力は負傷前のレベルまで完全には戻らないとされている。稀勢の里の場合は、最大の武器だった左おっつけの威力が最後まで戻ることはなかった。突き押し相撲の貴景勝にとっても、利き腕の左は生命線とも言える箇所だ。

 角界内で今回のケガの要因の一つと見られているのが、貴景勝の「稽古不足」だ。7月の名古屋場所は右ヒザの故障で全休。その後は部屋の稽古に参加せず、母校の埼玉栄高でのトレーニングで筋力の強化に取り組んできた。一方で秋場所前に稽古で関取衆と相撲を取ったのは15番だけ。千賀ノ浦親方も「関取衆との稽古は十分ではない」と不安を口にしていた。

 親方衆の一人も「稽古が足りないからケガをする。トレーニングと相撲を取る稽古は全く違う」と指摘する。実戦の中での激しい動きや衝撃に耐えられる肉体をつくるためには、筋力トレだけでは不十分ということだ。いずれにせよ、九州場所か来年1月の初場所で復帰したとしても、本来の力が発揮できる保証はどこにもない。

 新大関からわずか2場所で関脇へ陥落した“悪夢”が再び繰り返される可能性は否定できない。この日、病院での検査後に部屋へ立ち寄った貴景勝は「そっとしておいて」と話すにとどめたが…。大きな正念場を迎えた格好だ。