まさに“負の遺産”だ。大相撲秋場所(8日初日、東京・両国国技館)を控えた3日、またしても不祥事が発覚した。この日、日本相撲協会は十両貴ノ富士(22=千賀ノ浦)が付け人に暴力を振るったことを公表。同協会のコンプライアンス委員会が調査に乗り出すことになった。昨年3月場所でも貴ノ富士(当時は貴公俊)は今回とは別の付け人に暴行し、出場停止の懲戒処分を受けたばかり。短期間で2度の暴力行為があった事実は重く、協会が厳罰を下すことは必至。角界内に大きな波紋が広がっている。

 横綱白鵬(34=宮城野)が日本国籍を取得した同じ日に、角界内に新たな激震が走った。この日、師匠の千賀ノ浦親方(58=元小結隆三杉)は弟子の貴ノ富士が付け人の序二段力士に暴力を振るったことを日本相撲協会に報告。同協会は事実を公表し、コンプライアンス委員会が調査に乗り出す。貴ノ富士は秋場所を休場して謹慎する。

 広報部長の芝田山親方(56=元横綱大乃国)によると、貴ノ富士による暴力行為があったのは横審稽古総見が行われた8月31日。2日の朝に付け人が部屋からいなくなったことで、問題が発覚した。千賀ノ浦親方は貴ノ富士と付け人の双方から事情聴取。貴ノ富士は暴力を振るった事実を認めている。付け人に目立った外傷はなく、現時点では警察に被害届を出す予定はないという。

 芝田山親方は暴力の具体的内容や理由について「分からない。コンプライアンス委員会が調査する」として明かさなかったが、本紙の取材で深刻な状況が浮かび上がってきた。関係者の話を総合すると、貴ノ富士は付け人の態度に腹を立てて頭部を殴打。殴られた付け人の他にも2人の力士が同調し、合計3人の力士が部屋から逃げ出したという。

 このことからも、日頃から貴ノ富士が他の力士との間に問題を抱えていたことがうかがえる。しかも、貴ノ富士は昨年3月場所で今回とは別の付け人を殴打し「出場停止1場所」の処分を受けたことは記憶に新しい。当時の師匠だった貴乃花親方(花田光司氏=47)も監督責任などから降格処分を受けている。それから1年余りで起こった2度目の暴力行為…。“常習性”を疑われても仕方がない。

 今後はコンプライアンス委員会による調査を経て、理事会が正式な処分を決める見込み。芝田山親方は「貴ノ富士は2回目だから。暴力の程度ではなく、同じことを繰り返したことは重く受け止めなければいけない」と厳しい見方を示しているだけに「懲戒解雇」や「引退勧告」などの厳罰が下される可能性が高い。

 そして今回の一件で再び問われているのが、前師匠の責任だ。貴乃花親方は昨年10月に相撲協会を退職し、力士は千賀ノ浦部屋に移籍。その直後の12月には元幕内貴ノ岩(29)が付け人に暴力を振るって現役を引退するなど“負の連鎖”が続いている。角界内では「今の師匠(千賀ノ浦親方)になってから1年もたっていない。前の師匠(貴乃花親方)の指導にも何か問題があったとしか思えない」(親方の一人)との声が上がっている。

 貴ノ岩による暴行発生後、相撲協会は「暴力禁止規定」を新たに制定。番付に応じて処分が重くなることを明文化した。貴ノ富士は新制度で処分を受ける「第1号」の関取となる。いずれにせよ、角界内で一度は沈静化したはずの暴力問題が再燃した格好。目前に迫った秋場所に水を差すことになった。

【千賀ノ浦親方が謝罪】貴ノ富士の師匠、千賀ノ浦親方はこの日夜、東京・台東区の部屋で「大変申し訳ありません。(日本相撲協会の)広報部に全てお任せしているので、何もお話しすることができない。本当に申し訳ない」と謝罪した。その上で「貴ノ富士は謹慎で部屋からは出さない」と話し、親方の判断で謹慎としたことを明かした。