晴れて「白鵬親方」となれるのだろうか。大相撲の横綱白鵬(34=宮城野)がモンゴル国籍の離脱を同国政府に申請していることが17日、明らかになった。白鵬は東京・大田区で行われた春巡業で取材に応じ「(申請の)結果を待つだけ」と事実を認めた。かねて現役引退後は親方になることを希望しており、日本国籍の取得へ向けた動きは“既定路線”。ただ、さまざまな問題が複雑にからみ合うデリケートなテーマだけに、大横綱は慎重な姿勢を見せている。

 大横綱が日本国籍取得へ向けて新たな動きを見せた。「オドリーン・ソニン」などモンゴルの主要紙は17日付で白鵬が先週、同国大統領府に国籍離脱を申請したことを報道。白鵬は巡業先で取材に応じ「こういう形で早々とニュースになったのは、ちょっとビックリ」と驚きつつも「あとは(申請の)結果を待つだけだと思います」と事実を認めた。

 関係者によると、白鵬の日本国籍取得の手続きは最終段階に入っている。すでに日本政府の法務局に必要な書類をすべて提出済みで、日本語の試験にも優秀な成績で合格した。モンゴルの国籍離脱が完了次第、晴れて日本への帰化が認められる流れだ。モンゴルでは国籍離脱の申請から認められるまでに半年程度を要するのが一般的。順調に手続きが進めば、年内にも「日本人白鵬」が誕生する。

 白鵬は以前から現役引退後は親方になることを希望してきた。日本相撲協会の規則では、親方になるためには現役を引退した時点で「日本国籍を有する者」の条件を満たさなければならない。今回の動きは夢の実現に向けて「前進」ととらえることもできる。ただ、白鵬自身は慎重な構えだ。「今の時点で『ああです、こうです』と言うのはまだ早い」と詳細についてのコメントを避けた。

 なぜか。その背景には、大横綱が置かれた複雑な立場がある。その一つはモンゴル国民の反応だ。白鵬は2015年に日本の国民栄誉賞に相当する「労働英雄賞」を受賞している。国民的英雄がモンゴル国籍を離脱して日本人になれば「祖国を捨てた」と受け止められてもおかしくはない。実際、モンゴル国内での報道を受けて、早くも一部から批判的な声が上がっているという。ここで不用意に発言すれば、さらなる誤解を招きかねないだけに、慎重になるのも当然というところか。

 もう一つが自身の行動が引き金となった「三本締め問題」だ。日本相撲協会は白鵬が春場所千秋楽(3月24日)の優勝インタビューで三本締めをした行為を問題視。一昨年の九州場所では万歳三唱をして厳重注意を受けた“前科”があり、近日中に開かれる理事会では懲戒処分を下されることが濃厚となっている。

 現役引退後に親方になるためには、相撲協会による資格審査を受ける必要がある。協会に著しく貢献した横綱に贈られる「一代年寄」の授与も、協会上層部の心証次第だ。処分を控える時期に、思わぬ“失言”で波紋を広げることだけは避けたいところだろう。

 協会広報部長の芝田山親方(56=元横綱大乃国)は、白鵬のモンゴル国籍離脱申請について「何もありません。本人の問題だから。(協会への報告は)ない」とコメントしなかった。いずれにせよ、大横綱が「白鵬親方」となるために本腰を入れていることは確か。日本国籍取得の時期を含めて、今後の動向に注目が集まる。

【日本相撲協会の年寄襲名資格】大相撲の力士が現役引退後に相撲協会に残って親方になるには105ある年寄名跡のいずれかを襲名する必要がある。襲名は日本国籍を有する者に限られる。横綱経験者は5年、大関経験者は3年、しこ名のまま親方として協会に残ることができる。顕著な功績を残した力士には「一代年寄」が授与されることもあり、過去には大鵬、千代の富士(辞退)、北の湖、貴乃花の4横綱に贈られた。年寄襲名は横綱、大関や三役1場所以上、幕内通算20場所以上などが条件。年寄資格審査委員会が本場所の成績や指導力の有無、賞罰の状況などで適否を審査し、理事会に報告。理事会で認められれば襲名が決まる。