“武士道大関”貴景勝 「突き押し一辺倒」スタイル論争で角界二分

2019年03月29日 11時00分

自らのスタイルを貫く覚悟の貴景勝

“武士道大関”が誕生した。日本相撲協会は27日、貴景勝(22=千賀ノ浦)の大関昇進を正式に決定。新大関は伝達式で「大関の名に恥じぬよう、武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず、相撲道に精進してまいります」と口上を述べた。新たな横綱候補としての大きな期待を背負う一方で、貴景勝の相撲スタイルをめぐって角界内が真っ二つに割れる「大論争」が勃発。収拾がつかない事態となっている。果たして、角界の新ヒーローが進むべきは――。

 貴景勝は伝達式後の会見で、口上に「武士道精神」を入れた理由について「日ごろから『勝っておごらず、負けて腐らず』という言葉を意識している。武士道の中から習得した言葉でもある。受けた恩は必ず返す、男らしい人間でありたいという思いもあって、この言葉を使いました」と説明。「次の番付(横綱)を目指す。上を目指して立ち向かっていきたい」と改めて横綱挑戦を宣言した。

 新たな横綱候補としても期待が高まるばかりだが、角界内では新大関の相撲スタイルをめぐって大論争になっている。貴景勝の最大にして唯一の武器は強烈な突き押しだ。立ち合いが決まれば相手を電車道で持っていく威力がある半面、四つに組み止められると無抵抗で負けてしまうモロさがある。

 ただでさえ、押し相撲は調子の波が大きいとの“定説”がある。先の春場所中も貴景勝の大関昇進が現実味を帯びるにつれて親方衆や評論家から「今の突き押しだけでは大関になってから厳しい」との指摘が出ていた。さらに千秋楽翌日の25日には大横綱の白鵬(34=宮城野)が「それなりに四つ相撲も覚えないといけない」と発言し、論争に拍車がかかっている。

 一方で今の相撲を貫くべきとの見方も根強い。元関脇琴錦の朝日山親方(50)は「あの子は組んだら何も残らない。逆に変に四つ相撲を覚えて、たまたま成功すると『俺もいける』と勘違いをする。ラクをする方向にいく」とモデルチェンジには警鐘を鳴らす。同親方は速攻相撲で2度の優勝を誇り「F1相撲」「最強関脇」と称された。貴景勝も目標の力士の一人に挙げ、十両時代には助言を受けたこともある。

 その朝日山親方はこう力説した。「立ち合いだけではなく相手との距離を詰めるスピード、突っ張りながら時には左右からのいなし、引くしぐさ…一つひとつの動作が速いから相手はちゅうちょする。あの丸い体と短い手足でリズム良く突っ張られると相手は差せないし、まわしも取れない。自分が対戦相手なら攻略法はなかなか見つからない。(取り口が)一つしかなくても、もっと上を目指せる」

 現時点では、どちらが「正解」なのかは分からない。ただ、これまで相反するものと見られていた「突き押し一辺倒」の取り口と「安定感」を、少なくとも過去3場所は両立させてきたことは確か。その意味で貴景勝の相撲は“革命的”であり、議論が真っ二つに割れる理由にもなっている。

 貴景勝自身は、今後もブレずに自らのスタイルを貫いていく構えだ。この日の会見でも「あまり攻撃のパターンは多くないけど、この体でまわしを取るのは厳しい。自分が持っている少ない武器を、もっと磨く必要があるし、それしか自分が生き残る道はない」と断言した。

 自らの信念が正しいことを証明するためには、新大関として臨む夏場所(5月12日初日、東京・両国国技館)でも土俵で結果を残すしかない。

【武士道】武士が一般に心得ていたという倫理、道徳観や作法を指す。広辞苑には「鎌倉時代から発達し、江戸時代に儒教思想に裏付けられて大成。忠誠、犠牲、礼儀、潔白、情愛などを重んずる」などとある。江戸時代に書かれた「葉隠(はがくれ)」の「武士道といふは死ぬ事と見つけたり」が有名。明治期の新渡戸稲造の著書「武士道」は海外でも広く読まれている。