貴景勝と大関高安(28=田子ノ浦)が2敗同士で迎えた千秋楽。最後に賜杯をつかんだのは幕内最年少の若武者だった。先に貴景勝が錦木を下して13勝目。その後の結びで高安が関脇御嶽海(25=出羽海)に敗れ、貴景勝の初優勝が決まった。初土俵から26場所目の優勝は曙と並んで史上4位のスピード記録。22歳3か月での賜杯は年6場所制以降で6番目に若い。

 貴景勝にとっては激動の一年だった。昨年の九州場所で元横綱日馬富士(34)による兄弟子の幕内貴ノ岩(28)への傷害事件が発覚した。その後の対応などをめぐり、前師匠の元貴乃花親方は日本相撲協会と対立し、9月場所後に退職。千賀ノ浦部屋へ移籍した。貴景勝は一連の騒動について「(真相を)知っているわけじゃない。現役力士は相撲で頑張るしかない」と、今も多くは語らない。

 しかし周囲で起きた騒動の大きさを考えれば、今回の優勝は快挙と言える。その一方で今場所は大相撲が抱える課題も浮き彫りにした。白鵬(33=宮城野)と鶴竜(33=井筒)の両横綱が初日から休場し、稀勢の里(32=田子ノ浦)も5日目から休場。3横綱が不在となる異常事態となった。大関陣も奮起できず、最後は格下の小結に賜杯をさらわれた。

 日本相撲協会の八角理事長(55=元横綱北勝海)は「横綱大関が30代になって休場が多くなった。今は過渡期」と指摘。その現状を象徴する出来事があった。今場所の中日が過ぎ、後半戦に入ってからのことだ。元横綱朝青龍(38)が所用のため福岡を訪れた。3日間ほどの滞在期間中に、旧知の関係者が朝青龍を九州場所の観戦に誘ったのだが…。優勝25回を誇る大横綱は全く関心を示さなかったという。関係者と元横綱の間で、次のようなやりとりがあった。

 関係者「せっかくの機会なので、一緒に相撲を見に行きましょうよ」

 朝青龍「横綱が誰も出ていないじゃないか。見に行ったって、しようがないだろ!」

 結局、目と鼻の先で繰り広げられている貴景勝らの熱戦に目もくれず、朝青龍は九州場所をスルーして福岡の地から去ってしまったというのだ。

 もちろん、今場所で優勝を果たした貴景勝に一切の責任はない。それどころか、最後まで主役を演じ、最大の功労者と言ってもいい。ただ、大相撲は番付上の「格」が重んじられる世界であることも確か。横綱が強さを見せる、あるいは強い横綱を格下が倒してこそ盛り上がる側面があることは否めない。朝青龍が見せた行動は、大相撲が抱える“問題”を象徴する出来事でもあった。

 いずれにせよ、貴景勝は来年の初場所(1月13日初日、東京・両国国技館)の成績次第では大関昇進の可能性も出てきた。相撲ファンのみならず、大横綱にも「相撲を見たい」と思わせることができるのか。今後の動向に注目が集まる。

☆たかけいしょう・みつのぶ=本名佐藤貴信。1996年8月5日生まれ。兵庫・芦屋市出身。報徳学園中時代に中学横綱となり、埼玉栄高3年の2014年に世界ジュニア選手権無差別級優勝。同年秋場所に貴乃花部屋から初土俵。16年夏場所新十両。17年初場所新入幕。18年初場所新小結。10月に貴乃花親方(元横綱)の日本相撲協会退職により、千賀ノ浦部屋に移籍した。優勝1回。殊勲賞3回、敢闘賞2回。得意は突き、押し。175センチ、170キロ。