最後まで“因縁”は続いたということか。元横綱日馬富士(34)の「引退断髪披露大相撲」が30日、東京・両国国技館で開かれた。断髪式では兄貴分として慕った元横綱朝青龍(38)ら約400人の関係者がハサミを入れ、土俵人生に別れを告げた。その一方で、日本相撲協会は断髪式の最中にも貴乃花親方(46=元横綱)の引退と弟子の所属先変更に伴う対応に追われるなど、国技館が騒動の余波に包まれた。

 日馬富士は昨年11月、幕内貴ノ岩(28)に対する傷害事件の責任を取る形で現役を引退。この日は最後の土俵入りを披露し、現役横綱の白鵬(33=宮城野)と鶴竜(33=井筒)が太刀持ち、露払いを務めた。その後の断髪式で師匠の伊勢ヶ浜親方(58=元横綱旭富士)が大銀杏を切り落とすと、土俵に口づけをして相撲への感謝の気持ちを表した。

 日馬富士は「(入門してから)悔いのない素晴らしい18年間だった。これからは世界中を旅して勉強したい」と晴れやかな表情を浮かべた。ただ、この日の国技館は日馬富士の新たな門出を祝うムードで一色に染まっていたわけではない。暴行の被害者となった貴ノ岩は体調不良を理由に欠席。弟弟子の小結貴景勝(22)は参加したものの、貴乃花部屋消滅の発端をさかのぼれば日馬富士の事件にたどり着く。

 その貴景勝は師匠の突然の決断に「貴乃花部屋の弟子ですから…。落ち込んでいないわけじゃない」と本音をのぞかせつつ「自分にできることは相撲で頑張るしかない」と必死に前を向いた。ことあるごとに貴乃花親方からアドバイスを送られてきた横綱稀勢の里(32=田子ノ浦)は「言えることはない」と口をつぐんだ。

 日馬富士本人も、貴乃花親方について報道陣から問われるとトーンダウン。「私は相撲協会から離れていますので、協会のことを話す権利はない」と多くは語らなかったが、断髪式が行われている最中にも相撲協会は貴乃花親方の引退をめぐる対応に追われていた。

 前日29日に貴乃花親方は協会側から差し戻されていた弟子の所属先変更願を新たに作成し、代理人弁護士を通じて協会へ再提出した。この日は協会執行部の親方らが休日返上で出勤し、書類の内容に不備がないことが確認された。1日に開かれる臨時理事会で弟子の移籍が正式に承認され、貴乃花親方の退職も決定する見込み。加害者側の日馬富士の引退相撲と、被害者側の貴乃花親方の退職の時期が重なる皮肉な巡り合わせとなった。