貴乃花親方の引退届で焦点の協会「圧力」 真実か勘違いか

2018年09月26日 16時30分

信念を語った貴乃花親方

 大相撲が空前絶後の激震に見舞われた。これまで数々の騒動を起こしてきた貴乃花親方(46=元横綱)が25日、日本相撲協会に「引退届」を提出。都内で会見を開き、角界との決別を宣言した。相撲協会側は書類や手続き上の不備を理由に届け出を受理しなかったが、退職は避けられない流れとなった。その一方で、協会からの圧力を主張する貴乃花親方と協会側の見解は食い違いを見せるなど不可解な点も多い。貴乃花親方が退職を決意するに至った背景を含めて、本紙が徹底追跡した。

「平成の大横綱」がついに角界を去ることになった。この日の午後1時ごろ、貴乃花親方は代理人の弁護士を通じて日本相撲協会に「引退届」と弟子の「所属先変更願」を提出。協会側は親方が退職する場合は引退届ではなく「退職届」が必要なことや、所属先変更願に必要となる新たな所属先の師匠、千賀ノ浦親方(57=元小結隆三杉)による署名と押印がなかったことなどを理由に受理しなかった。

 ただ、貴乃花親方は会見で「(受理されなくても)意思は変わらない」と明言。もはや退職は決定的となった。その一方で、会見で語られた退職理由については不可解な点も多い。貴乃花親方は元横綱日馬富士(34)による弟子の幕内貴ノ岩(28)への暴行事件の対応などをめぐり協会と対立。今年3月9日に内閣府へ告発状を提出した(同月28日に取り下げ)。

 貴乃花親方は8月以降、協会のある幹部から「告発状の内容が事実無根であることを認めなければ、親方を廃業せざるを得ないと有形無形の要請を受け続けた」とし、圧力を受けたと主張。現在無所属の貴乃花親方が一門(複数の相撲部屋で構成されるグループ)に加入する際の条件とされていたという。協会は7月の理事会で親方全員が5つある一門(出羽海、二所ノ関、時津風、高砂、伊勢ヶ浜)のいずれかに所属する方針を決定。無所属の親方は今月27日の理事会までに所属先を決めることを求めていた。

 その上で貴乃花親方は「告発状は事実無根な理由に基づくものではございません。真実を曲げて事実無根だと認めることは、私にはできません」と強く訴えた。これに対して、協会の芝田山広報部長(55=元横綱大乃国)は東京・両国国技館で会見し「協会が圧力をかけた事実は一切ない。(告発状の内容の)事実無根を認めなければ廃業させる、一門に入れないといったことはない」と完全否定した。

 さらに「27日の時点で所属先の一門が決まっていない親方がいた場合の対応は、もう一度期間を取って一門への所属を調整する方向だった」と付け加えた。現時点で、どちらの主張が真実なのかは分からない。ただ、貴乃花親方が一部の親方から伝えられた話の趣旨を、協会からの「圧力」と取り違えた可能性は否定できない。

 本紙の取材では、実際に今回の一件で協会上層部が貴乃花親方を廃業させることを検討した形跡はない。貴乃花親方が内閣府へ告発状を提出して協会側と最も溝が深まっていた時期でさえ、協会幹部の間には「世間の反応を考えると、解雇(廃業)にまではできない」との認識があった。本気で追放するなら、3月場所での無断欠勤や弟子の貴公俊(21)の暴力行為で貴乃花親方に2階級降格処分を下した3月末の理事会でもやれたはず。この当時、貴乃花親方の「解雇」を主張していた親方衆がいたのも事実だ。

 その一方で、貴乃花親方が退職を決意した背景には、協会内での孤立化がある。自ら率いていた貴乃花一門が事実上の解散となり、所属していた親方衆の大半は「貴の乱」で離脱した二所ノ関一門へ復帰する道を選んだ。二所一門側が求めた条件は「貴乃花親方だけは受け入れられない」。かつての「同志」たちが袂(たもと)を分かったはずの古巣へなだれ込む姿は、貴乃花親方の目にどのように映っていたのか。

 他の4つの一門にも受け入れるところはなく、仮に引き取る一門があったとしても居場所はないに等しい。自らが置かれた状況を悟ったのか、身を引くことを決めた。自身の行動が招いた部分があるとはいえ、平成の大横綱は角界内で何ものにも代えがたい存在感を示していたことは確か。今後の影響が懸念される。