新国立競技場「白紙」でも泥沼継続?

2015年07月19日 10時00分

 司令塔をどこにするのか。2013年9月に20年五輪・パラリンピックの東京開催が決まった当時から異論が噴出していた新国立競技場の建設計画が17日、迷走の果て白紙へ戻された。安倍晋三首相(60)が自らの口で表明した。一連の経緯で批判に上がったのが「責任の所在」が分かりにくいことだ。この問題を放置しておくと、同じ失敗を繰り返しかねない。 

 安倍首相にとっては2年前に高らかに宣言した国際公約の撤回声明となった。20年五輪開催都市を選ぶ国際オリンピック委員会(IOC)総会のプレゼンテーションで、首相は「ほかの、どんな競技場とも似ていない真新しいスタジアムから確かな財政措置に至るまで、2020年東京大会はその確実な実行が確認されるものとなる」とスピーチし、背景に新国立の画像が映された。それがついに、「ゼロベース」で見直される。

 14日には担当閣僚が現行計画を推進する意向を示しており、急転直下に見える今回の方針大転換。16年五輪の招致で東京都の準備担当課長を務めた鈴木知幸・順天堂大客員教授は「おそらく、どのような方法でやれば(五輪開催までに)時間が間に合うか、メドをつけたのだろう」とここ数日の事態進展の理由を推し量る。

 安倍首相は世論の批判を受けて1か月前から検討を始めたと明かし、19年ラグビーW杯には間に合わないが「五輪・パラリンピックまでに間違いなく完成することができる。そう確信したので決断した」と言い切った。

 景観から巨額工費に財源、費用負担など、8万人収容で付帯施設も多い新国立は数々の問題を生じさせた。騒ぎが大きくなったのは5月、1625億円と見込まれていた建設費が2520億円に上ることが明らかになってから。この間「みんなで責任を押し付け合い、分散した」(鈴木氏)。

 担当官庁の文科省、その傘下にある新国立の事業主体・日本スポーツ振興センター(JSC)、政府に五輪開催都市の東京都、五輪組織委員会会長でラグビーW杯にも関わる森喜朗元首相(78)、さらにはデザイン審査の委員長を務めた建築家・安藤忠雄氏(73)、コスト見積もりをした業者…。互いに批判し合う醜い泥仕合に「どこが責任を持っているのか」という疑問が、世論や関係者を含めて絶えなかった。

 前例のない難工事が必要となる現行計画を辞めても、白紙リスタートとなれば時間の余裕が少ないことに変わりはない。19年9月開幕予定のラグビーW杯を断念しても、プレ五輪を行うため20年7月の五輪開幕に余裕をもって完成させたいところ。「何といってもプレ大会は1年前。それが一番気にかかる」(同)

 1996年アトランタ五輪のメーン競技場が開幕2か月前に開場し、同前月にテストイベント的位置づけで陸上の全米選手権が行われた例もあるが、早期完成に越したことはない。そのためにも責任の所在をより明確にすることが重要となる。

 鈴木氏は「政治主導は嫌いだけど」と前置きして「施設に特化して、官邸主導で命令を出して行う方法もあるのでは。最後まで(官邸に)やってもらっては困るが」と一案を示す。

 建築家の安藤氏は16日の会見で「リーダーが強い思いと強い力と強い知的能力をもって引っ張っていかないといけない。それが文科大臣なのか総理大臣なのか、私が決めるわけにはいかない」と語っている。

 6月に遠藤利明衆院議員(65)が就任した五輪担当相ポストが新設され、秋には文科省の外局としてスポーツ庁が発足予定。五輪関係の“船頭”はさらに増え、リーダーの存在が求められる。

 その前衛的なデザインや工事の難しさから「アンビルト(不建設)の女王」とも称される現行デザインを考えたザハ・ハディド氏(64)。新たな「アンビルト」となったザハ作品に代わり、新計画では1600億円程度への縮減を目指す。

 白紙リスタートとなると、3段階の設計作業から業者選定まで2年ほどかけてきた過程を相当早める必要がある。スタジアムは簡素になっても難事業。官邸のお出ましをいただくことになるのか…。