ラグビー日本代表が9月20日に開幕するW杯日本大会を前に、パシフィック・ネーションズカップ(PNC)第2戦トンガ戦(8月3日、花園)に臨む。W杯では史上初の8強入りが期待されるが、現代表に8人もの選手を送り込んだ帝京大ラグビー部の岩出雅之監督(61)を直撃。名将はインタビュー前編で、2015年イングランド大会で大活躍したFB五郎丸歩(33=ヤマハ発動機)に続く新ヒーロー候補、フランカー姫野和樹(25=トヨタ自動車)をはじめとする愛弟子について語った。

 ――W杯に臨む日本代表への期待は

 岩出監督 ファン目線で応援したい。ベスト8? うまくトリガーを引ければ普段以上の力を発揮してくれると期待している。人間は精神的と肉体的な限界があるけど、比較的、精神的限界で止めてしまうことが多い。ホームアドバンテージは限界のラインを越えていけるトリガーになるんじゃないかな。

 ――日本代表に多くのOBを送り込んだ

 岩出:教え子もたくさんいて、感情移入しやすいので楽しませてもらいたい。彼らはやるべきことに対して負担を感じるのではなくて、こういう立場の人間だからこそ味わえる楽しさもある。そういうことを味わって素晴らしい自分を出せる機会にしてほしい。

 ――中でも姫野はW杯のヒーロー候補だ

 岩出:よりブレークしてほしいよね。姫野はフィジカルなど持っているものが海外の選手級。みんなが活躍しないと世界の壁をぶち破れないけど、期待は大きい。

 ――学生時代はケガに苦しんだ時期もあった

 岩出:彼は筋力が強くてダッシュとか踏み込む強さがある分、骨に負担がかかってケガをしやすい。頑張れば頑張るほど(ケガの)リスクが高まるので、ほどほどに…を意識していた。野球で言うと球数を制限する感じ。本人にとっては不本意でしょうけど、出場時間とかは制限した。大きなケガにつながってしまうと、常に悪コンディションと付き合っていかなくてはいけなくなる。そこは将来のことを考えて慎重にやっていた。

 ――大学の4年間で精神面も成長したとか

 岩出:1年生のときはお子ちゃま(笑い)。中高時代は、お山の大将でジャイアンみたいな感じじゃないですか。でも3年生の途中から、しっかりしてきて注意することもなくなった。

 ――大学での成長もあって、卒業後に加入したトヨタ自動車では1年目で主将に抜てき

 岩出:それは(元南アフリカ代表監督でトヨタ自動車監督の)ジェイク・ホワイト(56)のおかげ。彼の可能性にかけてくれた。責任感を持たされて、自分が頑張らないといけない立場になっても逃げなかった分だけ成長できた。ラッキーだったよね。

 ――3度目のW杯となるフッカーの堀江翔太(33=パナソニック)について

 岩出:今もだけど、当時は組織も僕も未熟なところが多かった中で、成長してくれた。彼はおごらないし、偉ぶらない。グラウンドではすごいプレーをし、練習を最後までやる努力家でもある。みんなに慕われていた。

 ――大阪・島本高時代は無名の存在で、花園も未経験だ

 岩出:(2002年度の)日本選手権1回戦でサントリーさんと花園でやった試合前に、たまたま試合をやっていて見たらいい動きしていたので、すぐに(島本高の)監督さんに「お願いします」と言いにいった。そこは運がよかった。

 ――大学では主にバックロー(ナンバー8やフランカー)を務めた

 岩出:彼の4年時にちょうどニュージーランドからコーチがうちに来ていたときに、留学に行けるチャンスはないかと聞いたら「行ける」というので、挑戦することになった。それならナンバー8としては、小さいのはわかっていたからフッカーだなと。すぐに社会人に行かなくても、彼の実力なら戻ってきてもどこでも入れる。僕はそこを保険にして後押しした。

 ――今では日本代表不動のフッカーだ

 岩出:最初はフッカーとしては未熟で、フランカーみたいな動きをしていた。パナソニックに行ったときもそうだったけど、そこからすごい成長をしてくれたね。(続く)

【日本代表の日程】現在パシフィック・ネーションズカップを戦っている日本代表は第2戦のトンガ戦後、8月4日からフィジーに遠征し、第3戦の米国戦(同10日、スバ)に臨む。同18日からはW杯最終登録メンバーを絞り込むため、北海道・網走合宿を実施。同31日に本大会に出場する日本代表31人を発表する予定だ。9月6日には壮行試合(熊谷)で南アフリカと対戦し、同20日の開幕戦(味の素)でロシアと対戦する。

☆いわで・まさゆき=1958年2月21日生まれ。和歌山県出身。日体大でフランカーを務め、78年度の全国大学選手権を制覇。卒業後は指導者として実績を残し、高校代表監督も務めた。96年に帝京大ラグビー部の監督に就任し、2009年度から大学選手権9連覇を果たした。堀江、姫野ら多数の代表選手を輩出。