国際柔道連盟(IJF)が来年から試験的に導入する新ルールについて、IJFの理事も務める全日本柔道連盟の山下泰裕副会長(59)が15日、都内で経緯を説明した。「有効」や「合わせ技一本」の廃止など大きな波紋を呼んでいるが、舞台裏で明らかになったのはルール改定をめぐる世界の狡猾な駆け引き。ニッポン柔道が国際舞台で主導権を握る日は訪れるのか――。

 山下氏によれば、関係者によるルール改定の会合は10月末、UAE・アブダビで行われ、その後、グランドスラム東京大会を終えた今月5日にもう一度、開かれた。日本からは講道館の上村春樹館長(65)と山下氏のIJF両理事が出席し、侃々諤々(かんかんがくがく)の議論が繰り広げられたという。

 山下氏は「どうすれば柔道の価値を高めることができるか。サッカーやテニスと比べて柔道の評価は高くない」と危機感が根底にあることを指摘。また、リオ五輪男子100キロ超級決勝ではテディ・リネール(27=フランス)が原沢久喜(24=日本中央競馬会)を下して2連覇を果たしたが、リネールが原沢と組もうとせず、最後は指導の差で決着し物議を醸した。「最高の舞台で、真のチャンピオンを指導の差で決めていいのか」との声が相次いだことも改正の契機になったという。

 一方、柔道母国として話し合いを優位に進めたい日本側だったが、山下氏は「(希望は)“ある程度”反映された」と満面の笑みとはいかなかった。当初、五輪出場の権利を保持した国に複数の代表対象選手がいる場合、世界ランキング最上位者を五輪に出すという項目が議論された。決定すれば優秀な選手を複数抱える日本にとっては受け入れがたい事態。「東京では議論されなかった」(山下氏)と見送られたものの、対応の準備に時間を割かれた。

 さらに押さえ込みは15秒から10秒で技ありに変更されたが、アブダビの時点では「5秒で有効」も付け加えられていた。これに異を唱えたのが上村氏。東京での会合までに対策を練ったが、それも「有効」の突然の廃止で決着となった。

 日本側の訴えで背中をつけばヒジで防いでもポイントになるなど、認められたルールもある。ただ、全体的には「劣勢」の印象は否めない。嘉納治五郎師範が講道館ルールを制定したのは1900年のこと。技あり2つ(以上)での「合わせ技一本」は当時から存在していた伝統のルールだ。これも抵抗むなしく消滅した。山下氏は「我々のほうが議論が足りなかった」と反省を込める。

 最終決定は来年8月の世界選手権(ブダペスト)後。「まだ流動的な部分がある」(講道館幹部)との情報もあるが、JUDOから柔道への道のりはまだまだ険しい。