リオデジャネイロ五輪に出場する柔道の日本代表選手団壮行会が27日、東京・文京区の講道館で行われた。決戦ムードが高まるなか、注目はロンドン五輪で史上初の金メダルゼロに終わった男子代表だ。昨年の世界選手権では7階級中3階級を制覇。リオでの反撃に向けて、精鋭を束ねる井上康生監督(38)が本紙の単独インタビューで手応えを語った。ニッポン柔道史上に残る「屈辱」からの再生はあるのか――。

 ――――代表には有望な顔ぶれが揃った

 井上監督:一人ひとりの選手の能力はみんな金メダルを目指せる可能性がある。全階級ともそれぞれが五輪の際に悔いが残らないように、また、全力で試合が取り組めていけるような準備をしていきたい。

 ――ロンドン五輪ではコーチを務めた。金メダルゼロの瞬間は

 井上:責任というものを非常に感じたし、ひと言で言うなら「屈辱」。悔しさっていうものだけだったなと思います。選手たちは監督の篠原(信一)さんも含めた上で、みんな全力を尽くした結果ではあるんですけど、あってはならない日になってしまった。

 ――その篠原氏からバトンタッチを受けた

 井上:同じことをやっててはダメだなと。一つは科学的―非科学的なトレーニング、効率的―非効率的な練習のバランス。これが、まずは取り組んでいかないといけないところかなと思いました。練習量においては断然、日本の選手たちのほうが練習を行っている。だけど、我々は負けてしまった。練習の中の練習ではなくて、試合で生かすための練習はどういうものか考えてやることが、非常に大事なのではないかなと思いました。

 ――4年前から練習は大きく効率化した。一方で、昔ながらの練習も排除していない

 井上:試合は予期せぬこと、想定外のことも起きる生きたもの。そういう想定外のものにも対応できる技術、精神力、また体力。この部分を身につけていかないといけない。その中で、非効率的な、非科学的な練習は絶対必要と感じていた。このバランスを考えた上での練習を取り入れていきました。

 ――これはうまくいったな、と言えることは

 井上:分からないです(笑い)。五輪で失敗したら、「強化失敗」になりますからね。今年はよかったけど、次の年にそれが通じるかというと、そうではないなと思ったり、常に前を向いて、また常に進化していけるような考えを持っていかなければ、我々は伸び続けることはできないと思います。なんといっても今年の五輪が私にとっては大きな勝負で、そこの結果が初めて「じゃあ、こういうことやりました」「ああいうことやりました」というものが、認められることなのかなと私の中では思っています。

 ――「人事を尽くして天命を待つ」ということか

 井上:いろいろとやってきましたよ。みなさんも知っているように例えば、歴史上でなかったような100キロ級の(世界選手権)派遣を見送ったりということもあったり、一人の選手をやはり、環境の厳しいところに長期で送り込んでいったりとか、時にはいろんな面で厳しく接したりとか、いろんなことをやってきた部分があるんですけど、それもこれも今年の五輪がすべてですね。

 ――故斉藤仁強化委員長の無念も背負う

 井上:斉藤委員長は我々の胸に生き続けている。誰よりも柔道、特に日本柔道というものに対しての思いは非常に強く持たれていた方なんじゃないかなと思います。斉藤先生の遺志、思いというものを我々はしっかり受け継いだ上で、戦っていかなければいけないと思っていますし、天国から「康生よくやったな」と言ってもらえるような試合をリオではしていきたいと強く思っています。ソウル五輪の時もそうですけど、斉藤先生は執念というものを持って、誰よりも自分自身が勝つということを信じて戦われていた方。そういうものも選手たちも十分受け継いでいるというふうに思いますし、私もそれを信じて戦っていきたいと思います。

☆いのうえ・こうせい 1978年5月15日生まれ。宮崎・宮崎市出身。2000年シドニー五輪100キロ級金メダル。03年の全日本選手権で3連覇達成。08年、タレントの東原亜希さんと結婚し、4人の子供をもうける。同年5月に現役引退。12年、全日本男子監督に就任。東海大学体育学部准教授。183センチ。