柔道のグランドスラム東京大会初日(4日、東京体育館)、男子60キロ級は高藤直寿(22=東海大)が2年ぶり3度目の優勝を飾り、リオデジャネイロ五輪代表の座に大きく前進した。8月の世界選手権(カザフスタン)は代表漏れの屈辱。さらに11月には髄膜炎で5日間入院し、一時は選手生命の危機にさらされた。数々の試練を乗り越え、夢の切符に王手をかけた。

 遅れを取り戻し、一気に突き放した。日本男子代表の井上康生監督(37)は「瞬時に対応できる能力が高い。内容的なものも圧勝。リオ五輪にまた一歩、大きく近づいたところがある」と断言。世界選手権銅メダルでライバルの志々目徹(23=了徳寺学園職)との代表争いに、初めて明確な差をつけた。

 後がない大会だった。世界選手権で代表落ちし、巻き返すには優勝しかなかった。そんな高藤に、新たな試練が降りかかった。「頭痛と吐き気がすごくて…。もう意識が飛びそうなぐらい頭が痛かった」。異変が起こったのは11月上旬。9日に病院で検査を受けると、即入院が決まった。診断名は髄膜炎。「頭にばい菌が入っちゃって」

 当初は「入院になるとは思わなかった」と楽観していた高藤の表情は一変。「髄液検査とかいろいろして、試合も最初は病院の先生から出ちゃダメって言われました」。髄膜炎は「再発したら障害が残ったりする」。大会欠場どころか、選手生命も脅かされる日々だった。症状が治まったのは不幸中の幸いだった。

 退院後もすぐに練習は再開できない。1週間の自宅安静を指示された。大会まではわずか2週間で「それも徐々にって感じで」とギリギリの調整が続いた。11月23日、東海大での練習を「チラッとそういう話を聞いたので」と、男子代表の古根川実コーチ(37)が緊急視察し、状態をチェックするほどだった。

 それだけに、高藤の出した結果は大きな意味を持つ。世界選手権には出場できなかったものの国際大会3連勝。いずれも、ハイレベルな争いを制した。代表が決まるのは来年4月の全日本選抜体重別だが、温かく見守ってくれた井上監督に、早くも五輪での恩返しを誓う。「監督第1号の金メダルをプレゼントしたい」

 ようやく出たおなじみのセリフ。高藤に明るい笑顔が戻った。