【柔道世界選手権】21歳の新星・永瀬貴規“異色の柔道哲学”

2015年08月29日 10時00分

【カザフスタン・アスタナ27日発】柔道の世界選手権4日目、男子81キロ級で昨年5位の永瀬貴規(21=筑波大4年)が初優勝。準決勝で昨年王者のアフタンディリ・チリキシビリ(24=ジョージア)、決勝で一昨年の覇者ロイック・ピエトリ(25=フランス)を連破しての価値ある金メダルとなった。強豪が集い世界的に層が厚い“鬼門”の階級に現れた新星は、一体どんな男なのか。これまでの王者たちとはひと味違う「強さ」と「素顔」を公開する。

 男子81キロ級で日本選手の金メダルは2000年シドニー五輪の滝本誠以来出ていない。世界選手権では一度も勝てていないニッポン柔道の“鬼門”だったが、21歳のホープが強豪を次々に撃破。昨年5位から一気に頂点取りに成功した。永瀬は「今までやってきた成果が出て良かった。今まで世界で勝てないと思われていたが、81キロ級で勝てると証明できた」と力強く語った。

 キレのある大技を持っているわけでも、野獣のように闘志をむき出しにするわけでもない。どこかつかみどころがない雰囲気で、あれよあれよと勝ち上がってしまうのが永瀬の強さだ。

 ではなぜ勝てるのか。指導する筑波大の岡田弘隆総監督(48)が永瀬の長所をこう明かす。「組み手が上手で、ウエートが上がるとかではない“柔道力”が強い。体形的にも81キロ級にしては手足が長くて、懐が深い。(組んだ)相手が(間合いを)『遠い』と感じて、なかなか懐に入っていけないんです」

 鉄壁の防御には定評があり、パワーで押す外国人に突破を許さない。無差別の戦いも得意で、戦術にもたけたテクニシャンだ。全日本の井上康生監督(37)は「重量級以上の力を持っている」と評価。その井上監督の現役時代がそうだったように、これまでのニッポン柔道の王者は豪快な内股やキレ味鋭い背負い投げで一本勝ちを重ねてきた。永瀬にはそうした歴代王者たちとは“異質”の強さがあるのだ。

 素顔も昔の体育会気質の柔道家のイメージとはかけ離れている。その理由は、永瀬が貫く独特の柔道哲学にある。「柔道で見ている人を元気にさせる。お笑いもそうなんですけど、柔道でも人を幸せに、笑顔にさせられる」

 明るい性格で大の漫才好き。「くりぃむしちゅー」の有田哲平(44)や陣内智則(41)のファンで、主将を務める筑波大では冗談を言い仲間を笑わせることもしばしば。チームの空気が悪ければ、率先して飲み会に誘い気分転換を図った。

 試合でも何より意識するのは観客に楽しんでもらうこと…というから柔道家としてはかなり異色だ。「『勝ってほしい』と誰からも応援されるような柔道家になりたい」。多くの柔道関係者がどこか笑顔になってしまう不思議な魅力がある。

 座右の銘は「日々精進」。練習の虫で、誰よりも努力を欠かさない。岡田総監督は「非常に真面目な男だし、きちっとしている。でも、お酒が強いし、よく食べますよ。歴代のチャンピオンはみなさん、よく食べたので『とにかく食べろ』と言ってますので、大食漢になりましたね」と話す。

 これで来年のリオ五輪にも大きく前進。「チャンピオンになってこれまで以上に研究され簡単には勝たせてくれないが、有力な金メダル候補でしょう」(岡田総監督)。永瀬も「ここからが本当の勝負。自分がこの階級で頑張り、来年の五輪で金メダルを取りたい」と誓う。リオ、20年東京五輪へ頼もしいエース候補の誕生だ。

☆ながせ・たかのり=1993年10月14日生まれ。長崎県出身。長崎日大高出。2013年にユニバーシアードを制し、昨年の世界選手権は5位。今年は全日本選抜体重別選手権で2連覇し、5月のマスターズ大会優勝。世界ランキング5位。得意は内股、体落とし。181センチ。