【カザフスタン・アスタナ26日発】柔道世界選手権3日目、男子73キロ級で大野将平(23=旭化成)が2連覇を狙った中矢力(26=ALSOK)との日本人対決を制し、2年ぶり2度目の頂点に返り咲いた。

 崖っ縁で生き残った。昨年覇者のライバル中矢から小外刈りで技ありを奪って優勢勝ち。「勝因は自分の持ち味を出し切れたこと。素直にうれしいが、まだ気の抜けない状況だ」。大野は安堵の表情を浮かべることなく気を引き締めた。

 2013年にオール一本勝ちの離れ業で初V。しかし、直後に天理大柔道部暴力問題が発覚。3か月の登録停止処分を受け、奈落の底に叩き落とされた。畳から離れて、ボランティア活動から再出発。それでも、大野の夢は消えなかった。

 天理大を卒業し、昨年4月、旭化成に入社。この時、大野は中村兼三監督(41)に秘めた思いを告白した。「73キロ級の金メダリストは先生の後に出ていないですよね。だから、僕は旭化成に決めたんです」

 中村氏は1996年アトランタ五輪71キロ級の金メダリスト。2000年シドニー五輪から現在の73キロ級に階級変更となったが、日本人の同級金メダリストは同氏以来、出ていない。所属先を選ぶにあたり、決め手となったのは同氏のもとで「帝王学」を学ぶこと。リオ五輪への強烈な意思表示だった。

 代表合宿では一回一回の乱取りも実戦と同じ。大野は練習のテーマを「我慢」「執念」と口にし、階級が上の選手に胸を借りた。「でかい相手をつかまえて、ハラハラしながらやっている。気持ちの強い相手をなるべくつかまえて稽古している」。体重差が約70キロあるロンドン五輪100キロ超級金メダリストで、世界最強のテディ・リネール(26=フランス)にも果敢に勝負を挑んだ。「負けている時は気持ちが切れている時が多い。心のスタミナが一番重要」。練習からギリギリの勝負を重ねることで、接戦に強い精神力を養った。

 ビッグマウスが売りだが、男子代表の井上康生監督(37)は「豪快な柔道プラス緻密にやっている」と話すように、ライバルとなりそうな相手の研究にも取り組んだ。中矢が「相手のほうが研究で上回ってた」と舌を巻く会心の復活劇だった。