
【取材の裏側 現場ノート】一度浮かんだモヤモヤはなかなか消えなかった。つい先日、他社の先輩記者から「全国小学生学年別柔道大会が廃止になったことについてどう思う?」と聞かれたときの出来事だ。
全日本柔道連盟(全柔連)は先月18日、小学生の全国大会を廃止すると発表。「小学生の大会においても行き過ぎた勝利至上主義が散見されるところであります。心身の発達途上にあり、事理弁別の能力が十分でない小学生が勝利至上主義に陥ることは、好ましくないものと考えます」などと見解を公表した。
近年スポーツの現場で勝利至上主義という言葉を耳にする機会が増えたとはいえ、私が小学生から大学生まで野球を続けてきた中で一番うれしかったのは「チームが勝った」ときだった。「勝つために自分がやるべきことはなにか」。頭で考え、実際に行動する。自主性を重んじる指導者に恵まれたこともあり、どんどん野球が楽しくなった。全国の強豪チームと戦ったあの夏の日は、昨日のことのように覚えている。
だからこそ、複雑な心境だった。すぐさま返答しようと思ったが「確かに全柔連の考えはごもっともだな」と答えに困ってしまった自分がいた。そこで大学時代に教育実習でお世話になり「中学校に行くのが楽しくなる本~悩みを成長に変える60のヒント」の著者の1人である福井洸輔先生に疑問をぶつけてきた。
体育の先生として現場で多くの小中学生と接してきた福井先生は何を思うのか。「指導者は精一杯取り組んでいるからこそ勝ちにこだわってしまうので『大会をなくす』という仕組みを変えることで問題の解決を目指すやり方はいいと思う」と評価。その上で「無理な練習等でケガをして競技ができなくなったり、嫌いになってしまったら本末転倒。柔道だけではないが、小学生で燃え尽きずに、その後も競技を好きであってほしいし、大人になったときに幸せを感じてほしいとの思いがあるのでは」と分析した。
勝利至上主義については「競い合うことで人間として成長できる部分もある」と話す一方で、指導者の自己満足な行動は子供たちにとって大きなマイナスとの見方を示す。「もっと先にゴールがあると思う。みんなが最上位の目標を再確認するいい機会になるのではないか」。〝考える力〟を身につけることは、どの分野でも必ず大事になってくる。しかし、勝利にこだわるあまり、指導者が1から10まで手を出してしまったら今後につながらない。子供の成長を促進するためにも、長期的な視点で物事を見る必要があるというわけだ。
当然「全国大会がなくなった子供たちのモチベーションはどうするのか」との反対意見に耳を傾けなければならない。ただ、現場の先生の話を聞いて私が感じたのは「勝利と将来のバランスが大事だ」ということ。正直すぐさま結論は出せないだろう。それでも、子供たちが〝自ら考える力〟を養いながら、勝利という目標も追いかける風潮が当たり前になったら――。柔道だけでなく、日本のさまざまなスポーツがさらに盛り上がるのではと一筋の光が見えた気がした。
(五輪担当・中西崇太)
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